第814章:好きなように使えばいい!

馬場絵里菜は天に騙されたような気がした。

当初、頭が熱くなって井上裕人を盾にしようとしたのは、母親と井上裕人が接点を持つことはないだろうと思ったからだ。

今や良いことに、直接彼を家に招いてしまい、しかも見たところ二人の関係は彼女と井上裕人よりも親密そうだった。

「そこに立ってないで、早く出て行って裕人と一緒にいなさい」細田登美子はそう言いながら、馬場絵里菜の背中を軽く押した。

馬場絵里菜は流れに従ってキッチンを出ると、振り返った時に井上裕人がソファに横たわり、意味深な表情で彼女に微笑んでいるのを見た。

馬場絵里菜は全身がぞくぞくし、顔にどんな表情を浮かべればいいのか分からなくなった。

ソファまで歩いて座ると、馬場絵里菜はみかんを一つ手に取り、井上裕人に親しげな笑顔を向けた。「はい、みかんどうぞ」

うっ、気持ち悪い。

今回は自分自身に対して言っているのだ。

井上裕人は片手を頭の下に敷き、もう片方の手を腹部に無造作に置きながら、馬場絵里菜を見て言った。「皮をむいてくれない?」

馬場絵里菜はみかんを彼の顔に投げつけたい衝動を抑え、心の中で深呼吸した。

いいだろう、屋根の下では頭を下げざるを得ない。

我慢しよう!

みかんの皮をむくだけじゃないか。

あっという間にみかんの皮を花びらのようにむいた。「どうぞ」

井上裕人も程々を知っていて、これ以上無理な要求はせず、手を伸ばして受け取った。「僕は他人がむいたみかんを食べたことがないんだ。君が初めてだよ」

馬場絵里菜はソファに寄りかかり、淡々とした目で彼を見つめた。好きなだけ言えばいい、一言でも信じたら私の負けだ。

井上裕人は美味しそうに食べ、一片食べるごとに馬場絵里菜を見た。

彼が食べ終わると、馬場絵里菜はようやく「食べる人の口は軽くなる」という考えを抱きながら井上裕人を見て言った。「私は以前、やむを得ない選択だったの。意図的にあなたを利用しようとしたわけじゃないわ」

井上裕人はティッシュを一枚取って手を拭き、それを聞いて気軽に口を開いた。「僕は君に利用されても構わないよ。それに、これからも君が望むように利用してくれていい」

馬場絵里菜は井上裕人が下ネタを言っているのではないかと疑ったが、証拠はなかった。