山下おばあさんは目を細めて、「いいわよ。でも、綾乃の同意を得なければならないわ」と言った。
安田振蔵をいきなり小林綾乃の前に連れて行くのは、あまりにも失礼だろう。
安田振蔵は頷いて、「では、よろしくお願いします」と言った。
青葉総合病院の院長として。
安田振蔵には二人の憧れの人物がいた。
一人は狂医の青木墨。
青木墨は有名な古医師の伝人の一人だった。
彼女は師匠の名を明かしたことはなかったが、神業のような漢方医術を持っていたため、皆は彼女が永田徳本の一族だと推測していた。
青木墨は医学に命を懸けており、かつてある伝染病の特効薬を見つけるため、自ら毒を試し、死にかけたこともあったが、それで特効薬の発見に成功した。
医学界に大きな足跡を残した。
そのため、皆は彼女を狂医と呼んでいた。
医学界では「狂医青木墨は枯れた骨に肉を生やす。彼女が首を縦に振らなければ、死神でさえ彼女の手から人を奪えない!」という言葉が広まっていた。
しかし、青木墨という人物は常に謎に包まれており、公の場に姿を現すことはなく、彼女の素顔を見たことがある人はごくわずかだった。ここ2年ほど、彼女の名前が公衆の目に触れることが少なくなったため、多くの人々は彼女が医学実験で命を落としたのではないかと推測していた。
また、神隠しにあったという噂もあった。
安田振蔵のもう一人の憧れは長井紫だった。
長井紫は正統な永田徳本の子孫だった。
医学界で非常に重要な地位を占めていた。
もし青木墨が先に名を成していなければ、長井紫はとっくに医学界の頂点に立っていただろう。
そして今。
安田振蔵の憧れの人物がまた一人増えた。
それは山下おばあさんの言う綾乃だった。
「大したことじゃないわ。ほんの一言で済むことよ」と山下おばあさんは笑いながら言った。
安田振蔵は再び感謝を述べ、続けて「もし五先輩が私との面会を承諾されましたら、必ず事前にご連絡ください」と言った。
彼は準備をしなければならなかった。
山下おばあさんは今年で九十歳を超えているので、彼女の言う綾乃もきっと若くはないだろう。
安田振蔵は師を求めるのだから、当然お年寄りの好みそうな贈り物を用意しなければならない。
「わかったわ」と山下おばあさんは頷いた。
しばらくすると、看護師が山下おばあさんの薬を持ってきた。