秋山春樹は頭を下げ、地面に落ちている食堂カードに気づき、すぐに拾い上げた。「ありがとう。」
彼は小林綾乃が自分のことを好きに違いないと確信していた。
そうでなければ。
どうして自分の食堂カードが落ちたことまで分かるだろうか?
好きだから。
だから過度に気にかけている。
そう考えると、秋山春樹はやっと抑えていた心臓の鼓動が、また速くなり始めた。
「どういたしまして。」小林綾乃は淡々とした口調で答えた。
秋山春樹は彼女を見つめ、突然何かを思い出したように「小林さん、もうすぐ編入試験を受けるんだよね?」
「うん。」小林綾乃は軽く頷いた。
秋山春樹は続けて「頑張ってね。」と言った。
小林綾乃の家柄は少し劣るけれど、青葉高校に合格できれば、まあ彼の彼女として何とかなるかもしれない。
ただ、小林綾乃にその実力があるかどうかは分からない。
少し考えて、秋山春樹はさらに「そうだ、どのくらい自信ある?」と尋ねた。
小林綾乃は少し眉を上げ、「たぶん大丈夫だと思う。」
大丈夫?
秋山春樹は気付かれないように眉をひそめた。
どうやら小林綾乃は青葉高校の恐ろしさを知らないようだ。
燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや?
そうだな。
田舎から来た人が、大都会の競争の激しさを知るはずがない。
その言葉を言い終えると、小林綾乃は中庭の門から出て行った。
秋山春樹は手の中の食堂カードを握りしめ、階段を上がっていった。
秋田家と小林家は向かい合わせに住んでいた。
ドアは開いていた。
藤原巧はドア口に立っていて、息子が帰ってくるのを見ると、すぐに彼のカバンを受け取り、「春樹、その数学コンクールの通知は受け取った?」
「受け取ったよ、」秋山春樹は頷いて、「明後日試験だ。」
この言葉を聞いて、藤原巧は即座に笑顔になった。
息子には実力があると分かっていた。
しばらくして、藤原巧は何か思い出したように続けて「さっき階下で小林綾乃と話してたの?」
「うん、食堂カードを落としたんだけど、彼女が教えてくれた。」
藤原巧は冷ややかに鼻を鳴らした。「あの子、よくあなたのことを気にかけてるわね。」
小林綾乃がどんな魂胆かは考えるまでもない!
秋山春樹は容姿も良く。
家柄も良い。