054:満壺の水は音を立てず、半壺の水は音を立てる_6

山口が二人が来るのを見て、笑顔で言った。「小林さん、大川さん、来ましたね。」

「おはよう、山口さん。」二人は山口に挨拶した。

山口は続けて言った。「割引カードとチラシは印刷が終わりました。店まで運びますね。」

小林桂代は鍵を持って開けながら、「山口さん、ご苦労様。」

「いいえ、大したことないです。」

そう言うと、山口は荷物を全部店の中に運び入れた。

大川素濃は二つの大きな看板を店の入り口に置いた。

田中麗子もちょうどその時に店を開けに来て、大川素濃が看板を置いているのを見ると、すぐに手伝いに行った。「素濃さん、本当に店を移転するんですか?」

昨日の契約解除の時に田中麗子もその場にいたが、それでもまだ事態が突然すぎると感じていた。

しかも、彼女は暇な時はいつも大川素濃や小林桂代とおしゃべりをしていたので、二人が引っ越してしまうと、これからおしゃべりするのも不便になる。

最も重要なのは、隣に美人亭があることで、田中麗子は自分の店の商売も良くなったと感じていた。

美人亭が去ってしまえば、これからは客足も確実に減るだろう。

「私たちだって引っ越したくないんです。でも周という恥知らずのせいで、仕方がないんです。」

最後に大川素濃はため息をつきながら言った。「十日以内に全てのお客様に店舗移転のことを知らせるのは無理です。もし周がここでまた化粧品店を開くなら、騙される人が出てくるかもしれません!」

田中麗子は笑いながら言った。「それなら簡単です。私たちの店は隣同士なので、看板を一つうちの店の前に置かせてもらえば、皆さんが新しい店の住所を見ることができますよ。」

これを聞いて、大川素濃はすぐに田中麗子の手を握った。「麗子さん、それはいいアイデアですね。ありがとうございます!」

「綾乃さんには大変お世話になりましたから、こんなことは些細なことです。」と田中麗子は言った。

彼女は本当に小林綾乃を福の神のように思っていた。

そうでなければ、こんなに心を開いて、このような手助けをすることもなかっただろう。

それに、小林桂代と大川素濃はいつも自分の店の商売を気にかけてくれていて、二人とも服は彼女の店で買い、しかも正規の価格で支払っていた。値引きを申し出ても断られるほどだった。

そう言うと、田中麗子は看板を一つ自分の店の前に運んだ。

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