059:正体暴露、貴人の助け_5

小林綾乃は一気に飛び出し、泥棒を地面に押さえつけた。

その一連の動作は見事なものだった。

「盗みを働くんじゃないよ!」

「もう逃げないでしょうね?」小林綾乃は泥棒の手を押さえたまま言った。

一見軽く押さえているように見えたが、泥棒本人だけが分かっていた、彼女の力がどれほど強いのかを。

「逃げません、逃げません」泥棒は顔を真っ青にして、長年の経験の中で初めての失敗に、「お命だけはお助けを!」

山下言野が後ろから近づき、小林綾乃を見下ろすように見て、「腕前がいいね」

それを聞いて、小林綾乃は彼を一瞥し、「あなたも素晴らしかったわ」

彼女とこれほど息の合う人は珍しかった。

山下言野が初めてだった。

山下言野は薄い唇を少し上げ、「警察を呼ぶ?」

「どう思う?」小林綾乃は眉を少し上げた。

山下言野はすぐに理解し、ポケットから携帯を取り出して警察に通報した。

そのとき、少し太めの女性が息を切らしながら後ろから走ってきて、手にしたバッグで泥棒を叩き始めた。「この泥棒野郎!気持ち悪い奴!私の携帯を盗むなんて!盗むなんて!」

しばらくすると、泥棒は顔中あざだらけになった。

女性は怒りを発散させた後、やっと小林綾乃の方を向いた。「本当にありがとうございました!」

小林綾乃は目を細めて笑い、「どういたしまして。でも、泥棒を捕まえたのは私一人じゃないんです」

そう言って、小林綾乃は山下言野を見た。「この鉄屋さんにも感謝しないと」

女性の視線が山下言野のイケメンな顔に向けられ、一瞬顔を赤らめた。「あ...ありがとうございます」

女性は表面上は落ち着いているように見えたが、実際は心臓が激しく鼓動し、ほとんど呼吸ができないほどだった。

こんなにかっこいい男性が本当にいるなんて。

今日は本当についてる日だわ!

携帯を盗まれたのに運命の出会いまで!

「些細なことです」山下言野は簡潔に答えた。

すぐに。

パトカーが到着した。

強盗は刑事事件なので、小林綾乃と山下言野、そして被害者は警察署で供述する必要があった。

そこで。

全員がパトカーに乗り込んだ。

一橋景吾と黒武もパトカーに乗った。

小林綾乃はようやく一橋景吾の顔を見て、目を細めて尋ねた。「六郎さん、顔どうしたの?」

六郎さん?

それを聞いて、一橋景吾は思わず咳き込みそうになった。