小林綾乃は一気に飛び出し、泥棒を地面に押さえつけた。
その一連の動作は見事なものだった。
「盗みを働くんじゃないよ!」
「もう逃げないでしょうね?」小林綾乃は泥棒の手を押さえたまま言った。
一見軽く押さえているように見えたが、泥棒本人だけが分かっていた、彼女の力がどれほど強いのかを。
「逃げません、逃げません」泥棒は顔を真っ青にして、長年の経験の中で初めての失敗に、「お命だけはお助けを!」
山下言野が後ろから近づき、小林綾乃を見下ろすように見て、「腕前がいいね」
それを聞いて、小林綾乃は彼を一瞥し、「あなたも素晴らしかったわ」
彼女とこれほど息の合う人は珍しかった。
山下言野が初めてだった。
山下言野は薄い唇を少し上げ、「警察を呼ぶ?」
「どう思う?」小林綾乃は眉を少し上げた。
山下言野はすぐに理解し、ポケットから携帯を取り出して警察に通報した。
そのとき、少し太めの女性が息を切らしながら後ろから走ってきて、手にしたバッグで泥棒を叩き始めた。「この泥棒野郎!気持ち悪い奴!私の携帯を盗むなんて!盗むなんて!」
しばらくすると、泥棒は顔中あざだらけになった。
女性は怒りを発散させた後、やっと小林綾乃の方を向いた。「本当にありがとうございました!」
小林綾乃は目を細めて笑い、「どういたしまして。でも、泥棒を捕まえたのは私一人じゃないんです」
そう言って、小林綾乃は山下言野を見た。「この鉄屋さんにも感謝しないと」
女性の視線が山下言野のイケメンな顔に向けられ、一瞬顔を赤らめた。「あ...ありがとうございます」
女性は表面上は落ち着いているように見えたが、実際は心臓が激しく鼓動し、ほとんど呼吸ができないほどだった。
こんなにかっこいい男性が本当にいるなんて。
今日は本当についてる日だわ!
携帯を盗まれたのに運命の出会いまで!
「些細なことです」山下言野は簡潔に答えた。
すぐに。
パトカーが到着した。
強盗は刑事事件なので、小林綾乃と山下言野、そして被害者は警察署で供述する必要があった。
そこで。
全員がパトカーに乗り込んだ。
一橋景吾と黒武もパトカーに乗った。
小林綾乃はようやく一橋景吾の顔を見て、目を細めて尋ねた。「六郎さん、顔どうしたの?」
六郎さん?
それを聞いて、一橋景吾は思わず咳き込みそうになった。