その言葉を聞いて、鈴木赤玉の心臓が早鐘を打った。
鈴木澪由は相続の件について話そうとしているのだろうか?
そうでなければ。
なぜこんなにも厳かな様子なのだろう?
書斎で話をする必要があるのだろうか?
そう。
きっとそうに違いない。
長年の待ちわびた努力が実を結ぶと思うと、鈴木赤玉は興奮を抑えきれず、鈴木澪由の後を追った。
書斎に着くと、鈴木赤玉はドアをしっかりと閉めることも忘れなかった。
「おばさま、何かお話があるのですか?」
鈴木澪由は書斎の椅子を指差して、「座りなさい」と言った。
鈴木赤玉は鈴木澪由の前に座った。ついにこの日が来たと思うと、少し緊張していた。
なぜなら。
もうすぐ彼女は徳川家の当主になるのだから。
今日からは高い地位にある徳川当主になれると思うと、鈴木赤玉の心は喜びで一杯だった。
ついにこの日が来た!
そうだ。
いくつかの計画を実行に移せる時が来たのだ。
そのとき、鈴木澪由は淡々と口を開いた。「赤玉、あなたに話したいことがあるの。でも、心の準備をしておいてね」
「はい、おばさま」鈴木赤玉は必死に落ち着きを取り戻そうとした。
鈴木澪由は続けた。「あなたのお母さんの山田絹美は29年前に交通事故で亡くなって、多摩霊園に眠っているの。時間があったら、お参りに行ってあげなさい」
死者に対する敬意。
山田絹美はもう亡くなっているのだから、鈴木澪由は過去のすべてを水に流す覚悟だった。
彼女は鈴木赤玉を育てる恩義は果たせなかったが、それでも赤玉は彼女が産んだ子供だ。
今、鈴木赤玉がお参りに行くことは、生みの親への恩返しになるだろう。
そのため一晩考えた末、鈴木澪由はこのことを鈴木赤玉に告げることにした。
娘として。
彼女にはこのことを知る権利がある。
その言葉を聞いて。
鈴木赤玉は頭から冷水を浴びせられたような気分になった。
頭から足先まで冷え切った。
彼女は鈴木澪由が相続の話をすると期待していた。
しかし鈴木澪由の話は全く関係のない内容だった。
鈴木赤玉は目に宿る思いを押し殺し、鈴木澪由を見上げた。「おばさま、私を捨てた時点で、もう彼女とは何の関係もありません」