070:光速で顔面打撃、報いが降りかかる_2

「たとえ彼女を殴ったとしても、得にはならないわ。警察が来たら、私たちが医療費を払わなければならなくなるだけよ。意味がないわ」

暴力は問題を解決するどころか、双方に損害をもたらすだけだった。

小林桂代は和を以て財を成すことを主張する人だった。

大川素濃は深く息を吸い、必死に冷静さを取り戻そうとした。

大川素濃が怒り心頭の様子を見て、小林桂代は続けて言った。「素濃さん、綾乃の言うことにも一理あるわ。人は自分の感情をコントロールする術を学ばなければならないの。感情すら制御できない人が、どうして大きな事を成し遂げられるでしょう?私たちの美人亭の道のりはまだまだ長いわ。これからこういうことは増えこそすれ、減ることはないでしょう。慣れていかなければならないわ」

これは本当に、字も読めなかったあの小林桂代なのだろうか?

その言葉を聞いて、大川素濃は一瞬驚き、小林桂代を見上げた。義姉が知らず知らずのうちに、随分と変わっていることに気づいた。

肌の色が白くなっていた。

顔のしわが減っていた。

以前の小林桂代はどこにいても習慣的に腰を曲げていたが、今では背筋もピンと伸びていた。

それだけではない。

この数日間、小林綾乃の側にいることで、小林桂代は多くのことを学んでいた。

人としても大きく成長していた。

雰囲気さえも随分と変わっていた。

知識があるというのは、やはり違うものだ。

このような小林桂代を見て、大川素濃はある詩を思い出した。

腹に詩書あれば気自ずから華なり。

今の小林桂代は、言わなければ、誰が彼女が学校にも行ったことのない人だと分かるだろうか?

大川素濃はそのまま小林桂代を見つめて、「お姉さん、変わったわね」と言った。

「変わった?」小林桂代は慌てて自分の顔を触った。「私のどこが変わったの?」

大川素濃は真剣に言った。「きれいになったわ」

「本当?」小林桂代の目には驚きの色が満ちていた。

これは初めて誰かに綺麗だと褒められたことだった。

小林桂代の自己イメージは、いつも黄ばんだ顔で字も読めない村の主婦のままだった。

「本当よ」大川素濃は頷いた。「それも、とてもきれいになったわ」

だから小林綾乃があんなに綺麗なのも理由があったのだ。

遺伝子が良いからだ。