077:恐ろしい実力、身分を明かす_2

今日の面会のために、井上森は彼女とのデートまでキャンセルした。

まさか、こんなことになるとは!

斎藤素子に来てもらえばよかった。

彼女は来たがっていたのに。

[逃げる?卒業論文諦めるの?]と木下斌が返信した。

卒業論文という言葉を見た瞬間、井上森はその考えを即座に打ち消し、おとなしく椅子に座った。

安田振蔵は二人の学生よりもずっと落ち着いていた。女性が医学で何か成果を上げられるとは思っていなかったが、これまでの経験から、誰のことも軽視してはいけないと分かっていた。

そのため、安田振蔵は小林綾乃に微笑みかけ、「小林さんは、この件についてどのようなご意見をお持ちですか?」と尋ねた。

小林綾乃はそこに座ったまま、実年齢とは不釣り合いな落ち着きを見せながら、「まずは皆さんの実験の結論と過程をお聞かせください」と言った。

たった一言。

しかし、その言葉には威厳が満ちていた。

安田振蔵はカバンを開け、「小林さん、これが私たちの実験結論です。ご覧になりながら説明させていただきますが、この実験は実は5年前から始めていまして...」

それを見た井上森は目を見開いた。

小林綾乃は明らかに自分が分からないから、安田振蔵に先に説明させたのだ。

彼は安田振蔵が小林綾乃の要求を断るだろうと思っていた。

なぜなら、それは時間の無駄でしかないから。

しかし...安田振蔵はあまりにも素直に、小林綾乃に言われるがまま説明を始めた。

まさか安田振蔵は彼女が何か実質的な提案ができると本当に期待しているのだろうか?

井上森は再び木下斌にメッセージを送った。[先生、おかしくなったんじゃない?]

[私も先生がちょっとおかしいと思う。]

そのとき、安田振蔵は木下斌を見て、「木下君、何か補足することはありますか?」と続けた。

木下斌は困惑した表情で安田振蔵を見た。

ちゃんと聞いていなかったのに、どうやって補足すればいいのだろう?

安田振蔵は小林綾乃に説明した。「彼は私の博士課程3年の学生で、来年卒業予定です。最近はこの実験を担当しています。」

小林綾乃は軽く頷き、木下斌の顔に視線を向けた。「どうぞ。」

木下斌は喉を鳴らした。

誰か彼に教えてほしい、なぜこんなに緊張しているのか。

この緊張感は奇妙だった。

まるで目の前に偉い人が座っているかのように。