安田振蔵も彼の二人の学生も、小林綾乃が間違った部屋に来たと思った。
あるいは。
彼女はここのウェイトレスだろう。
誰も彼女を「おじいさん」という言葉に結びつけなかった。
予約してある?
もしかして自分が間違った部屋に来てしまったのか?
そう聞いて、小林綾乃は一歩後ろに下がり、部屋番号を確認した。
間違いない。
L2の個室だ。
小林綾乃は前に立っている安田院長を見て、赤い唇を開いた。「安田院長ですか?」
「はい、そうです」安田振蔵は頷いた。
小林綾乃は続けて言った:「私は小林綾乃です」
小林なに?
小林五郎?
この瞬間、安田振蔵と二人の学生は幻聴を聞いたと思った。
ありえない。
絶対にありえない。
小林おじいさんがこんなに若いはずがない。
しかも、女の子?
安田振蔵が最初に反応を取り戻し、続けて言った:「あなたはおじいさんのお孫さんですね?」
そうだ。
きっとお孫さんに違いない。
言い終わると、安田振蔵は笑いながら言った:「小林さん、どうぞお座りください。おじいさまはご都合が悪くて来られないのですか?」
その言葉が終わるや否や、空気の中で携帯の着信音が鳴った。
安田振蔵は携帯を取り出した。
山下おばあさんからの電話だった。
「もしもし、山下おばあさん」彼は続けて言った:「お会いしました、お会いしましたが、小林おじいさんはいらっしゃらず、おじいさまのお孫さんが来られました」
「何のお孫さん!何のおじいさん!綾乃はもともと若いのよ。私が言ったでしょう、きっと驚くって」電話の向こうで、山下おばあさんの声は非常に興奮していた。
残念ながら彼女は安田振蔵の驚きの表情を直接見ることができなかった。
安田振蔵は再び驚愕し、小林綾乃の方を振り向いて、しばらく反応できなかった。
小林綾乃は落ち着いていて、自分でお茶を注いだ。
上等な碧螺春。
口に含むと爽やかな味わい。
安田振蔵は電話を切って、「小林さん、あなたが、あなたが山下おばあさんの病因を一目で見抜いた方なのですか?」
「はい」小林綾乃はお茶碗を置いた。
この言葉が出た途端。
空気は奇妙な静けさに包まれた。
安田振蔵は「おじいさん」との出会いについて様々なシーンを想像していた。
ただこのような場面だけは想像していなかった。