研究室は騒がしかった。
安田振蔵は「妖艶な」という言葉を「五」と聞き間違えた。
電話を切ると、安田振蔵はすぐに隣の学生に向かって言った。「おじいさんが会うことを承諾してくれたぞ!木下斌はどうだ?準備するように言ったものは、全部用意できたか?」
「本当ですか、先生?先生がおっしゃっていた、すごい腕前のおじいさんですか?」
「ああ。」
安田振蔵は頷いた。
「先生」斎藤素子が横から近づいてきて、マスクを外しながら、「私も先生と先輩と一緒に行ってもいいですか?」
斎藤素子は安田振蔵が指導する唯一の女性博士課程の学生だった。
彼女は医学の才能があり、優しい心の持ち主だった。
しかし、女性は専門分野において男性より少し劣るため、安田振蔵はこの学生をあまり重視していなかった。彼女を受け入れたのも友人の顔を立てたからだった。