079:徳川家の継承者_6

「スーパーを売るの?」

小林桂美は首を振って、「考えたことないわ」と答えた。

スーパーの商売は芳しくないものの、日々の経費は何とか賄えていて、月に8000元から1万元ほどは稼げている。この辺りの不動産価格は1万元ちょっとで、彼女のスーパーは50平方メートルあるが、60万元にも満たない価格では割に合わない。

その言葉を聞くと、中年女性の後ろにいるボディーガード風の男性がすぐに言った。「店主さん、私どもの奥様はここの環境の良さに目をつけられて、老後を過ごすのに適していると。買い取って改装し、ご実家のお母様をお呼びしたいとのことです。もしお売りいただけるなら、ご希望の価格を仰ってください。うちの奥様はお金に困っていませんので」

奥様?

お母様?

まるでドラマの中でしか聞けないような呼び方だ。

桂美はますますこの中年女性が普通の人ではないと確信し、試すように尋ねた。「それで、いくらまでお出しいただけますか?」

中年女性は笑いながら答えた。「100万元です」

100万元

桂美は驚いた。

中年女性は市場価格のほぼ2倍の価格を提示したのだ。

100万元は大した額ではないが、彼女の貯金と合わせれば、市の中心部の高級マンションの頭金として十分な額になる。

桂美は調べていた。

あちらの高級マンションは1平方メートル5万元で、100平方メートルの物件なら500万元以上必要だが、頭金として300万元以上払えば、その後のローンの負担もそれほど大きくならない。

それに、彼女のスーパーはたった50平方メートルほどで、常連客相手の商売なので、譲渡しても引き継ぎ手がいないだろう。

まさか今日、こんな金持ちが現れるとは。

しかし桂美は自分の思惑を悟られないようにして、「100万元...ちょっと少ないような気がしますが」と言った。

中年女性は笑いながら、「では、おいくらご希望ですか?」と尋ねた。

桂美は歯を食いしばって、直接数字を口にした。

「150万元です」

桂美はこの価格を言えば、中年女性が高すぎると思うだろうと予想したが、相手は笑いながら「いいですよ」と答えた。

ちっ!

典型的な金持ちのバカね。

桂美は内心喜びで花が咲きそうだった。150万元でも同意するなら、もっと値上げしても同意してくれるはず。