その時、上田月見は目が回るような思いがした。
後悔の念で胸が一杯だった。
小林桂代の言っていた小さな看板が美人亭だったなんて、思いもよらなかった。
もしそれを知っていたら、小林綾乃たちをきちんとおもてなししていたはずだ。
上田月見は深く息を吸い、落ち着こうと努めながら坂本鈴を見た。顔から軽蔑の色は完全に消えていた。「坂本さん、冗談じゃないですよね?」
坂本鈴が自分をからかっているのではないかと思えてならなかった。
あの美人亭なのだ。
ダフ屋を使っても手に入らないものを。
坂本鈴は真剣な表情で言った。「こんな冗談を言って何になるの?信じられないなら、店に来て見てみなよ。彼女たちがくれたフェニックスセットもまだあるわ」
先日、上田月見は坂本鈴と一緒に並んだが、二人とも何も買えずに帰った。
坂本鈴はお金に困っていない人で、手ぶらで帰りたくなくて、並んで買えた人に5000元で買おうとしたが、その人は売ってくれなかった。
それを聞いて、上田月見はすぐに坂本鈴の後を追った。
二人は一緒に坂本鈴の店に向かった。
テーブルの上のフェニックスを見て、上田月見はようやくこれが現実だと信じられた。足取りがおぼつかない。チャンスを逃してしまったことを後悔した。
もし彼女があの時、ドアの隙間から人を見下すようなことをしていなければ、今頃は美人亭に店舗を貸している人は自分だったはずだ。
美人亭のオーナーと良好な関係を築いていたのも自分のはずだった...
将来、美人亭の販売代理店になれる可能性があったのも自分のはずだった...
でも今は。
ただ黙って坂本鈴を羨むしかない。
坂本鈴は続けて言った。「美人亭のオーナーがどれだけ庶民的か分からないわよ。明日にも人を派遣して改装の仕事を始めるって。約半月後には営業開始できるそうよ。これからは美人亭の商品を買うのに南通りまで行かなくて済むわ!」
上田月見の顔は真っ青だった。「どうして私、彼女たちが美人亭のオーナーだと気付かなかったんだろう?」
「あなただけじゃないわ、私も気付かなかった」坂本鈴は店の入り口を見ながら言った。「どこのオーナーがあんなに控えめなのかしら?」
美人亭のような価値のある会社なら、最低でもアウディやベンツ、BMWクラスの車で来るはずなのに、彼女たちはシトロエンで来たのだ。
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