小林桂美は首を振って、「分からないわ。中に入って見てみましょう」と言った。
「はい」城井沙織は小林桂美の後に続いた。
中庭に入ってようやく大川素濃が買った新車が見えた。
小林桂美は口角を少し上げた。
ふん。
大川素濃が何か高級車でも買ったと思ったのに!
ただのボロいシトロエンじゃない。
たった190万円だけ。
さっきの大川素濃の得意げな声を聞いた人は、何か数千万円もする高級車でも買ったと思うでしょうね。
結局たいしたことないわね。
このボロ車、きっとローンで買ったんでしょう。
弟の家の経済状況なんてよく分かっているわ。
弟一人が稼いで家族全員が使う。
今住んでいる家もまだ数百万円のローンが残っているのに、大川素濃は小林桂代に10万円も投資して、今度は無駄に車を買って...
小林桂美は目に浮かぶ皮肉を押し殺し、大川素濃の側に行って笑顔で言った。「碧、車買ったの?」
「うん」
大川素濃の車が全額払いできるはずがないと分かっていても、小林桂美はわざと聞いた。「この車、全額払い?それともローン?」
「全額よ。この車そんなに高くないから」と大川素濃は笑って答えた。
全額?
190万円は高くないかもしれない!
でも大川素濃に払える余裕があるの?
見栄を張ることしかできない人じゃない。
本当に気持ち悪い。
まるで小林桂代と同じ。
何者でもないくせに、虚栄心だけは強い。
それを聞いて、小林桂美は作り笑いを浮かべた。「190万円の車を全額払いだなんて、碧はこの間お姉さんと商売して相当儲かったんでしょう?きっと住宅ローンも完済したんじゃない?」
「ちょっと儲かったわ」と言って、大川素濃は不思議そうに続けた。「お義姉さん、どうしてこの家のローンが完済したって知ってるの?強輝が話したの?」
彼女は小林桂美にそんな話をしたことは一度もなかった。
大川素濃の言葉を聞いて、小林桂美は笑いそうになった。
この大川素濃は本当に大口を叩くわね!
住宅ローンも完済して全額で車も買うなんて、宝くじでも当たったのかしら。
小林桂美は目を細めて、「お姉さんと商売してそんなに儲かったなら、どうして新しい家を買わないの?このボロい団地に住み続けるのもどうかと思うけど?」