085:こうして征服された~_5

直接見なければ信じられないだろう。普段は冷酷無比なトップの上司がこんな一面を持っているなんて!

まさに奇跡を見た気分だ!

そう思い、一橋景吾は思わず言った。「社長、小林のことが好きなら早く追いかけたほうがいいですよ。あんなに可愛い子なんだから、先を越されたらどうするんですか?」

小林綾乃のような女の子は、周りに追っかけが絶えないはずだ。

しかも彼女はもうすぐ高校三年生になる。

学校は小さな花園のような世界だ。

小林綾乃が誰かの男子生徒を好きになるかもしれない。

「誰が彼女のことを好きだと言った?」山下言野は眉をひそめた。

一橋景吾は呆れて、「本当に好きじゃないんですか?」

「言っただろう。俺は恋愛なんて信じない」と山下言野は言った。

彼は恋愛も結婚もしないつもりだった。

山下言野は言行一致の人間で、自分の人生観を曲げることは決してない。彼が小林に対して感じているのは同情であって、決して好意ではない。

そう。

ただの同情だ。

結局のところ、小林綾乃は彼と同じような境遇の人間なのだから。

二人とも家族に見捨てられながらも、自分の力で這い上がってきた人間だ。

だから、彼らの間にあるのは相通じ合う気持ちのはずだ。

山下言野のその様子を見て、一橋景吾は諦めたような表情を浮かべた。

いつまで強がり続けられるか、見ものだな!

山下言野は志村文礼に視線を向けた。「さっきは俺が怪我をした夜、誰が助けてくれたのか聞いていたよな?」

「はい」志村文礼は興味深そうに尋ねた。「三番さん、一体誰なんですか?」

「あの子だ」山下言野はゆっくりと言った。

あの子?

小林綾乃?!

志村文礼は眉をひそめた。「三番さん、さっき来たあの少女のことですか?」

「その通りだ」山下言野は軽く頷いた。

志村文礼は首を振った。「信じられません」

彼は傷の縫合方法を細かく観察していた。

記憶の中のものと全く同じだった。

名医でなければ、このような技術は持ち得ない。まして少女なんて論外だ。

そう言って、志村文礼は続けた。「あの少女は医師免許すら持っていないはずです」

小林綾乃はまだ何歳だ?

そんな技術を持っているはずがない。

医学の大家と接する機会は多かったが、みな三十歳以上だった。もちろん、彼の憧れの人は別だが!