直接見なければ信じられないだろう。普段は冷酷無比なトップの上司がこんな一面を持っているなんて!
まさに奇跡を見た気分だ!
そう思い、一橋景吾は思わず言った。「社長、小林のことが好きなら早く追いかけたほうがいいですよ。あんなに可愛い子なんだから、先を越されたらどうするんですか?」
小林綾乃のような女の子は、周りに追っかけが絶えないはずだ。
しかも彼女はもうすぐ高校三年生になる。
学校は小さな花園のような世界だ。
小林綾乃が誰かの男子生徒を好きになるかもしれない。
「誰が彼女のことを好きだと言った?」山下言野は眉をひそめた。
一橋景吾は呆れて、「本当に好きじゃないんですか?」
「言っただろう。俺は恋愛なんて信じない」と山下言野は言った。
彼は恋愛も結婚もしないつもりだった。
山下言野は言行一致の人間で、自分の人生観を曲げることは決してない。彼が小林に対して感じているのは同情であって、決して好意ではない。
そう。
ただの同情だ。
結局のところ、小林綾乃は彼と同じような境遇の人間なのだから。
二人とも家族に見捨てられながらも、自分の力で這い上がってきた人間だ。
だから、彼らの間にあるのは相通じ合う気持ちのはずだ。
山下言野のその様子を見て、一橋景吾は諦めたような表情を浮かべた。
いつまで強がり続けられるか、見ものだな!
山下言野は志村文礼に視線を向けた。「さっきは俺が怪我をした夜、誰が助けてくれたのか聞いていたよな?」
「はい」志村文礼は興味深そうに尋ねた。「三番さん、一体誰なんですか?」
「あの子だ」山下言野はゆっくりと言った。
あの子?
小林綾乃?!
志村文礼は眉をひそめた。「三番さん、さっき来たあの少女のことですか?」
「その通りだ」山下言野は軽く頷いた。
志村文礼は首を振った。「信じられません」
彼は傷の縫合方法を細かく観察していた。
記憶の中のものと全く同じだった。
名医でなければ、このような技術は持ち得ない。まして少女なんて論外だ。
そう言って、志村文礼は続けた。「あの少女は医師免許すら持っていないはずです」
小林綾乃はまだ何歳だ?
そんな技術を持っているはずがない。
医学の大家と接する機会は多かったが、みな三十歳以上だった。もちろん、彼の憧れの人は別だが!