そうね。
小林桂美は意図的にそうしたのだ。
わざとそんな言葉を言い出し、小林桂代を刺激したのだ。
小林桂代が大風呂敷を広げるからだ。
彼女が花月マンションで部屋を買ったら、見栄を張るために、小林桂代はすぐさま大言壮語を吐いて、帝苑マンションで部屋を買ったと言い出した。
でも桂美は本当に買ったのだ!
小林桂代は?
小林桂代は口先だけで買ったのか?
一つの嘘は百の嘘で塗り固めなければならない。小林桂代がこの先どうやって嘘を重ねていくのか、見物だわ。
そう思いながら、小林桂美は目を細めた。
小林桂代はシートベルトを外し、笑顔で顔を上げた。「綾乃が帝苑マンションの内装があまり好きじゃないの。古くさいって思うから、リフォームするかもしれないわ」
小林綾乃が好きじゃない?
小林桂美は心の中で嘲笑った。
小林桂代は嘘をつくときも目一つ瞬きもしないものだ。
彼女が帝苑マンションの内装について言わなければ、小林桂代は帝苑マンションが高級内装付きだということさえ知らなかったのではないか?
「じゃあ、いつリフォームする予定?」リフォームにも期限があるはず。永遠にリフォームし続けるわけにはいかないでしょう?
小林桂代は言った。「今、碧の弟にデザイナーを紹介してもらって、イメージ図を作ってもらっているところよ。具体的な工事の時期は、勝部が綾乃とリフォームの方向性を決めてからになるわ」
リフォームのことは彼女には分からないから、口出しもしない。
それに小林桂代は住む場所にそれほど拘りがないし、小林桂美のような虚栄心もないから、当然急いで引っ越す必要もない。
小林桂代があんなにもっともらしく話す様子を見ていると、知らない人が見たら本当に帝苑マンションに部屋を買ったと思うだろう。
厚かましい。
小林桂美はもう小林桂代と無駄口をたたく気も失せ、大川素濃に目を向けた。「あなたはどう?素濃さん。あなたもまだ引っ越してないの?やっぱり帝苑マンションの内装が気に入らないの?」
大川素濃はドアを開けて車から降りた。「気に入らないわけじゃないの。お姉さんと一緒に引っ越そうと思ってるだけよ。私たち家族だけが先に引っ越したら、誰も知り合いがいなくて寂しいでしょう」
その言葉を聞いて、小林桂美は思わず笑いそうになった。
大川素濃もよく言えたものだ。