「はい、おばさん」
小林桂美一家をもてなすため、小林桂代は沢山の料理を作ったが、今は食べ散らかされたテーブルだけが残っていた。
小林強輝という大の男にこんな仕事をさせるのは相応しくない。ましてや小林強輝は目上の人だ。小林綾乃は立ち上がってテーブルを片付けようとした。「おじさん、私がやります!」
しかし小林強輝は小林綾乃の手から皿を取り上げ、彼女を部屋の中へ押しやった。「宿題をしなさい。子供が余計なことに首を突っ込むな!」
そう言うと、小林強輝はドアを閉め、小林綾乃に一切の機会を与えなかった。
小林綾乃は仕方なく部屋に戻った。パソコンを開こうとした瞬間、携帯が鳴った。
不明な番号からだった。
小林綾乃は電話に出た。「もしもし」
電話の向こうから安田振蔵の切迫した声が聞こえてきた。「小林さん、私は安田です。病院で緊急手術の患者が来ました。患者の身分が特殊で、命に関わる状況です!当院には今、執刀できる医師がいません。申し訳ありませんが、来ていただけませんか?」
患者の容態が危険で、身分も特殊だ。もし彼らの病院で何か問題が起きれば、安田院長の立場も危うくなる。
やむを得ず、安田振蔵は小林綾乃を思い出したのだ。
小林綾乃は医術が優れているから、きっと何か方法があるはずだ。
小林綾乃は少し躊躇した後、「分かりました、すぐに行きます」
電話を切ると、小林綾乃は医療バッグを手に取りながら外へ向かった。
小林強輝は台所で皿を洗っていた。小林綾乃は「おじさん、ジョギングに行ってきます」と言った。
小林綾乃は毎晩ジョギングする習慣があったので、小林強輝も疑うことなく、ただ気を付けるように、何かあったら直ぐに電話するようにと注意した。
「はい、おじさん」
そう言うと、小林綾乃は急いで家を出た。
一方。
安田振蔵が電話を切ると、副院長の馬場康誠がすぐに尋ねた。「どうでしたか?」
安田振蔵の顔には薄い汗が浮かんでいた。「小林さんがすぐに来ると言われました」
それを聞いて、馬場康誠はほっと息をついた。「それは良かった」
さっきまで、病院が終わりかと思っていた。
安田振蔵は額の汗を拭い、傍らの助手に向かって「志村先生は?連絡は取れましたか?」と尋ねた。
助手は首を振った。「まだです」