「彼女はかなりの年配なんでしょうか?」
「さすが医学の大家だから、年齢はそれなりにいってるでしょうね」
これを聞いて、ずっと黙っていた城井芳子が思わず口を開いた。「あの、先輩方、おそらく皆さんの予想は違います」
「何が違うの?」他の医師たちは城井芳子の方を振り向いて尋ねた。
城井芳子は続けた。「昨夜の当直の時に、安田院長が小林さんを手術室の方へ案内しているのを見かけたんですが、彼女はそれほど年配ではなく、むしろとても若かったです」
この言葉を聞いて、オフィスは一気に騒然となった!
「マジか!城井、本当に小林さんを見たの?」
「はい」城井芳子は頷いた。
「知ってたら俺も昨夜当直したのに。城井、小林さんはどんな感じ?きれいだった?」
城井芳子は昨夜の光景を一生懸命思い出そうとした。横顔しか見えなかったものの、とても素敵な女性だということは分かった。「小林さんはとても綺麗で、背も高かったです。でも、言われなければ医学の大家だとは誰も気付かないと思います」
見間違いかもしれないが、城井芳子にはその小林さんが高校生のように見えた。
若々しく活力に満ちていた。
見ているだけで心地よい雰囲気を醸し出していた。
「城井、本当にその人が小林さんだって確信持てる?」
「間違いありません!」城井芳子は頷いた。「確かに彼女です。院長がとても恭しい態度でしたから!」
これを聞いて、志村文礼は何かを思い出したように続けた。「城井、何時頃に小林さんを見かけたの?」
この質問に、城井芳子は一瞬固まった。
それもそのはず。
志村文礼は普通の人物ではなかった。
青葉総合病院で藤原天佑の最も期待される弟子で、将来を託される存在だということを知らない者はいなかった。
しかも病院には志村文礼に密かな想いを寄せる医師や看護師が大勢いた。
普段は誰とも長く話すことはなかったのに。
彼女は志村文礼が話しかけた最初の人物となった。
この瞬間。
オフィスにいる未婚の女医たちは皆、彼女を羨ましそうに見つめていた。
城井芳子は激しく鼓動する心臓を抑えながら答えた。「だ、だいたい10時半くらいです」
小林桂美と城井定邦をロビーまで迎えに行った時、城井芳子は壁掛け時計を確認していた。
そうでなければ、こんなにはっきりと覚えていなかっただろう。