青木玉樹はその言葉を聞いて、幻聴かと思った。
ご、ご老人は大丈夫なのか?
青木玉樹は安田振蔵から手を離し、老人の方を見つめ、目には信じられない表情を浮かべながら、「お、お目覚めになられたのですか?」
老人は頷いて、「ええ、目が覚めた」
目覚めただけでなく、今は非常に調子が良かった。
疲労感は消えていた。
自分をコントロールできない無力感も消えていた。
体中に力が満ちていた。
精神も充実していた。
まるで生まれ変わったかのようだった。
そう言って、老人は安田振蔵の方を向き、続けて言った:「小林さんと安田院長は私の命の恩人だ!安田院長に謝罪しなさい」
青木玉樹は即座に安田振蔵の方を向き、90度の深々とした礼をして、「安田院長、先ほどは私が軽率でした。どうかお許しください」
安田振蔵は頭を下げながらしわになった服を整えて、「構いません」
この光景を見て、馬場康誠は呆然としてしまった。
ど、どうしてこうなったのか?
老人は何ともなく、それどころか安田振蔵と小林綾乃が恩人になってしまった!
青木秘書部長までもが大人しく安田振蔵に謝罪している。
自分のこれまでの行動を思い出し、馬場康誠は喉を鳴らし、額から豆粒ほどの汗が流れ落ちた。
この瞬間、彼はほとんど青木玉樹と安田振蔵の顔を見る勇気もなかった。
今どうすればいいのか?
老人は青木玉樹の方を向き、表情は虚弱そうだったが、声は力強く、「私の状態は他の人には知られていないだろうな?」
青木玉樹は答えた:「ご安心ください。病院関係者以外には誰も知りません」
老人はほっと息をつき、周りを見回してから眉をひそめて言った:「小林さんはどこだ?」
手術室を出たとたん、手術をしてくれた若い女性が見えなくなってしまったのはなぜだろう?
小林綾乃が老人の手術を行う前、老人は意識不明の状態だったが、意識ははっきりしており、麻酔医が麻酔を打つ前のすべての経緯を覚えていた。
もし小林綾乃が正確に病因を診断していなければ、今頃は黄泉の国に行っていたかもしれない!
しかし、これも安田振蔵が無条件で小林綾乃を信じてくれたおかげだ。
安田振蔵の全面的な支持がなければ、小林綾乃も衆議を排して手術を完遂することはできなかっただろう。