山下おばあさんは少し躊躇して、「でも、手ぶらであなたの家に行くのは失礼じゃないかしら?」
今は破産したおばあさんという設定だけど、果物くらいは買っていけるはずだ。
手ぶらで行くのは、やはり少し失礼な気がする。
そう言って、山下おばあさんはさらに続けた。「それに、突然一緒に帰って食事をするなんて、お母さんに迷惑をかけないかしら?」
「大丈夫ですよ」小林綾乃は山下おばあさんの手を取り、断る余地を与えない様子で言った。「私と母も食事をするんですから、お箸が一膳増えるだけのことです」
それを聞いて、山下おばあさんは笑顔で答えた。「そうね!今度は私が廃品を売ったら、お二人を食事に招待するわ」
「はい」小林綾乃は軽く頷いた。
二人は一緒に階段を上がった。
小林綾乃は鍵を持っていたので、直接ドアを開けた。
ドアを開けるやいなや、左利が中から飛び出してきて、小林綾乃の体に飛びついた。「ニャー!」
「左利」小林綾乃は左利を抱きしめながら、「お母さん、誰が来たか見てください!」
小林桂代はちょうど台所で料理を作っていたが、それを聞いて、エプロンも脱がずに出てきた。
リビングに来ると、山下おばあさんの姿が目に入り、小林桂代は喜びに満ちた表情で山下おばあさんを抱きしめた。「金田おばさん!」
おそらく母を早くに亡くしたせいか、小林桂代は山下おばあさんを見るたびに、何とも言えない親しみを感じるのだった。
まるで。
以前、山下おばあさんに会ったことがあるかのように。
山下おばあさんは少し照れくさそうに言った。「桂代、お邪魔させてもらうわ」
小林桂代は笑顔で答えた。「金田おばさん、うちで食事をしていただけるなんて、私の方が嬉しいです!どうぞお座りください。ここをご自分の家のようにしてください。遠慮なんてなさらないでください!」
そう言うと、小林桂代は小林綾乃の方を向いて、「綾乃、鍋の中の料理が焦げそうだから、金田おばあさんにお茶を入れてあげて」
一言言い終わると、小林桂代は台所に戻って料理を続けた。
「はい」小林綾乃は左利を抱きながらお茶を入れに行った。
山下おばあさんは、この2LDKの部屋を見渡した。
部屋は広くはないが、とても清潔に保たれており、至る所に温かみが感じられる。これを見ても、部屋の主人が心優しい人であることが分かる。