白川露依は再び山下おばあさんに言い返せなくなった。
山下おばあさんは最後のコーラを飲み干し、階段を上がって行った。
白川露依はおばあさんの後ろ姿を見て、少し困ったように首を振った。
やはり年を取ると、わがままな子供のようになるものだ。
山下おばあさんは部屋に戻り、ドアを閉めてから、棚の前に歩み寄り、棚の上に置いてある箱を取ろうとした。
しかし棚があまりにも高すぎて、つま先立ちをしても届かず、仕方なく小さな椅子を持ってきて、やっと箱を取ることができた。
紫檀の箱。
かなり古そうで、表面の塗装が剥げかけていた。
おばあさんは誰にも自分の部屋の掃除をさせなかったので、箱は塗装が剥げているだけでなく、厚い埃も積もっていた。
山下おばあさんはタオルを取り、丁寧に箱を拭き、しばらくしてから蓋を開けた。
パチッ。
蓋が開いた。
中には写真が一枚と、ネックレスが一本入っていた。
写真はカラーだったが、長年の経過で少し酸化していた。ただし保存状態が良かったため、写真に写る若い女性の姿がはっきりと見えた。
少女はピンクのワンピースを着て、花畑の中に立っており、春の花よりも輝いていた。
山下おばあさんは写真の人物をじっと見つめ、次第に目が潤んできた。
これは彼女の娘。
そして、たった一人の娘だった。
「亭亭、あの世でお前は幸せにしているのかい?」
写真の少女は何も答えず、ただ笑顔で山下おばあさんを見つめていた。
ポタッ。
濁った涙が一滴、写真の上に落ちた。
「亭亭、私はお前に会いたくてたまらないよ...」
本当に会いたい、会いたい...
彼女は人前で娘のことを話すことは決してなかった。
白川露依でさえ、姑から義理の妹の話を聞くことは稀だった。
しかし、彼女は常に娘のことを想い続けていた。
娘が事故に遭った時期、彼女は自殺まで考えた。そして、遠藤家の者が山下言野を追い出し、娘が不倫をしていたと誹謗中傷した時まで。
その時から、山下おばあさんは悲しみを押し殺し、山下言野を引き取って自ら育てた。
そして、彼の名前も変えた!
いつか必ず、娘が彼らの言うような人間ではないことを証明してみせる!
一瞬にして、部屋の空気が重く沈んだ。
一方。
小林桂代は運転免許試験場に来て、実技試験を受けることになった。