097:賭約、優越感

山下言野は誰のことも好きになったことがなかった。

血気盛んな思春期も、今の若さ盛りの時期も。

昔もなかった。

これからもないだろう。

小林綾乃への気遣いは、ただ二人が似たような経験を持っているから、互いに理解し合えるだけだった。

複雑な感情は一切含まれていない。

だから。

この言葉を口にした時、自分の言葉が覆されるとは思いもしなかったし、将来この大言壮語にどう向き合うかなど考えもしなかった。

この言葉を聞いて、一橋景吾は全身に力が漲り、山下言野を見つめながら興奮して言った:「兄貴、本気で言ってるの?」

「男に二言はない」山下言野は淡々と言った。

一橋景吾はすぐに続けた、「その通りだ!」

言い終わると、一橋景吾は腕を組んで、「兄貴、後悔しちゃダメだぞ」

「後悔?」山下言野は一橋景吾を横目で見た。

彼の辞書には後悔という言葉はない。

一橋景吾は得意げな表情で、「兄貴、今回は絶対負けだよ」

山下言野は何も言わなかった。

一橋景吾はポケットから携帯を取り出し、「さっきから録音してたんだ。約束は守ってもらうからね」

彼は山下言野が後ろ向きに這うシーンを想像して、わくわくしていた!

あの光景!

きっと刺激的だろう。

反対側から袋を持って歩いてきた志村文礼は、二人の会話を耳にした。

彼は眉をひそめた。

一橋景吾は何か重病を患っているのではないかと思った。

山下言野は既に小林綾乃のことを好きではないと否定したのに。

それでも彼は執拗に追及し続ける。

さらには山下言野と賭けまでする。

好きかどうかは本人が一番分かっているはずだろう?

一橋景吾は自分が山下言野の腹の中の虫だとでも思っているのか?

彼のこの行為は、あまりにも境界線を無視している。

それに。

小林綾乃は大谷家の私生児に過ぎない。

あの顔以外に、彼女に何の取り柄があるというのか?

彼女のどこが山下言野の好みに値するというのか?

一橋景吾は自分が欲情に目が眩んで是非も分からなくなっているだけなのに、山下言野も自分と同じだと思っているのか?

志村文礼を見かけると、一橋景吾は笑顔で手を振った、「志村、こっちに来いよ!」

志村文礼は急いで近寄った。

「何かあったの?」