城井芳子は志村文礼が自分を探しに来たのではないと知り、少し落胆し、心臓の鼓動も遅くなった。
すぐに、城井芳子は志村文礼が言及した小林さんが誰なのかを理解した。
今日、小林さんがあの特別な身分の老人の検査のために病院に来ると聞いていた。きっと志村文礼はそのことで来たのだろう。
そう考えて、城井芳子は続けて言った。「小林さんは今、きっと安田院長と一緒にいますよ。」
安田院長という言葉を聞いた瞬間、志村文礼は踵を返した。
城井芳子は再び志村文礼を呼び止めた。「志村先生、ちょっと待ってください。」
「何か用事があるのか?」志村文礼は足を止めた。
城井芳子は続けて言った。「安田院長が小林さんに会うなら、きっと正面玄関は使わないと思います。」
正面玄関を使わない?
志村文礼は眉をひそめた。なるほど、だから病院内を歩いてきても何も異常がなかったのか。
「正面玄関を使わないなら、どこを使うんだ?」志村文礼は尋ねた。
城井芳子は答えた。「VIP専用通路の入口を見てみたらいかがでしょうか。」
志村文礼は頷き、お礼を言った後、急いで裏口の方向へ走っていった。
志村文礼の後ろ姿を見つめながら、城井芳子は春の訪れを感じさせる表情を浮かべた。もし将来、志村文礼のような人と結婚できたらいいのに。
きっと家族の誇りになれるだろう。
でも残念。
志村文礼は西京から来た人だから、自分なんか眼中にないはず。
志村文礼は裏口まで走った。
しかしそこには既に小林綾乃の姿はなく、安田院長と青木玉樹が何かを話し合っているだけだった。
距離が離れていたため、志村文礼は二人の会話を聞くことができなかった。
しかし、安田振蔵の態度がとても恭しいことは見て取れた。
しばらくして。
青木玉樹は立ち去った。
そこには安田振蔵だけが立ち尽くしていた。
志村文礼は服を整え、足早にその方向へ向かった。「安田院長。」
声を聞いて、安田振蔵は振り返った。「志村先生。」
前回不愉快な出来事があったものの、志村文礼の医術は確かに優れていたので、安田振蔵は最低限の敬意は持っていた。
志村文礼はまだ若い。
この失敗を教訓にしてくれることを願う。
志村文礼の慌ただしい様子を見て、安田振蔵は何か用事があるのだろうと推測し、笑いながら言った。「志村先生、何かご用でしょうか?」