しかし、杉本瑠璃はそれについて考える時間がなく、澄んだ目で吉川先生をじっと見つめながら、
「七十二歳」
吉川先生は髭をなでながら頷き、さらに尋ねた。「私が持っている医学書は何冊だと思う?」
「千百二十冊」
吉川先生の目が一瞬輝いた。続けてさらに質問を投げかける。「私の初恋は何歳のときだったと思う?」
……ごほっ、ごほっ、ごほっ!
杉本瑠璃は、期待に満ちた眼差しで自分を見つめる吉川先生を見て、なんとも言えない気まずさを覚えた。
どの質問も妙なものばかりだが、仕方なく正直に答える。「七歳」
その瞬間、吉川先生の顔がぱっと明るくなり、なんと手を叩いて喜び始めた。先ほどまでの落ち着いた風格はどこへやら、まるで子供のようにはしゃいでいる。
杉本瑠璃は呆然とし、この吉川先生は少しおかしいのではないかと疑い始めた。
杉本瑠璃が茫然としている時、吉川先生は突然彼女の前に飛び出し、鋭い目で彼女を見つめた。杉本瑠璃は心臓が跳ねた。
まさか、何か気づかれたのか?
いや、そんなはずはない。彼女の事情はあまりにも奇妙で、誰も知るはずがない。落ち着かなければ。
「お嬢さん、もう少し質問させてもらおう。全部答えられたら、この薬草堂を君にあげよう」
吉川先生の目には何か企んでいるような光が見えた。しかし杉本瑠璃は動揺を見せず、少し考えてから「すでに三つの質問に答えました。もし全て正解なら、この薬草堂は既に私のものになっているはずです」とゆっくりと言った。
彼女の読心能力は一日に五回しか使えず、使いすぎると頭が痛くなる。リスクは冒したくなかった。
今日はもう四回使っていた。
吉川先生は目の前の冷静な少女を見つめた。彼女の表情からは何も読み取れず、まるで事実を述べているだけのようだった。
どうやら、ようやく最適な後継者を見つけたのかもしれない。
ただし……
「これは私の薬草堂だ。私が何問質問しようと自由だ。タダで得をするのはそう簡単じゃないぞ!」
吉川先生は頑固そうに、少し理不尽な態度を見せた。杉本瑠璃は目を上げ、吉川先生の目を見つめ、そしてゆっくりと立ち上がって外へ向かって歩き始めた。
「おい!お嬢さん、どうして突然帰ろうとするんだ。待て、待て、待て!」
吉川先生は焦って飛び跳ねた。杉本瑠璃が質問に答えることを拒否し、さらに立ち去ろうとするとは予想もしていなかった。
やっと気に入った人物を見つけたのに、このまま逃がすわけにはいかなかった。
吉川先生の見えないところで、杉本瑠璃の口元にかすかな笑みが浮かび、すぐに消えた。
「お嬢さんは随分と気が強いね。行くと言えば行ってしまう。あまりにも無責任だ!」
吉川先生は意外にも杉本瑠璃を非難し始めた。杉本瑠璃は吉川先生を見つめ、「三つの質問に正解しましたよね?」と尋ねた。
「その通りだ、正解だった!」
杉本瑠璃は頷き、さらに「私が正解したのに、薬草堂を私にくれないということですか?」と続けた。
この質問を聞いて、吉川先生は焦り始めた。「誰がそんなことを言った!私はただもう少し質問したいだけだ」
「でも私はもう答えたくありません。私が無責任なのではなく、吉川先生が約束を守らないのです」
吉川先生は歯がゆい思いをした。これまで誰もが彼に対して丁重で、まるで神様のように扱ってきたのに、突然杉本瑠璃にこのように言われ、胸が詰まる思いだった。
しかし、杉本瑠璃の非を指摘することはできなかった。確かに彼が言ったのは、三つの質問に答えて、満足できれば薬草堂を譲るということだった。
これだけの人の中で、杉本瑠璃だけが彼の心に適っていた。
しかも、後ろにはもうほとんど人が残っていない。このような娘に再び出会うのは難しそうだった。
吉川先生は外を見渡し、源様一人だけが並んでいるのを見て、表情が一気に暗くなり、惨めな様子を見せた。
「よし!質問はもうしない。この薬草堂は君のものだ!」
年寄りが約束を破って若い娘をいじめているなどと言われたくはなかった。
杉本瑠璃が喜びを見せる前に、吉川先生はさらに付け加えた。「ただし、一つ条件がある」
杉本瑠璃は少し横目で見て、考えてから「どんな条件ですか?」と尋ねた。
すると吉川先生は神秘的に笑って「当ててごらん!」と言った。
くそ!
杉本瑠璃は思わず悪態をつきそうになった。この老人は彼女を弄んでいるのか!
杉本瑠璃がまた身を翻そうとするのを見て、吉川先生は慌てて「当てなくていい、当てなくていい。条件というのは、私の弟子になって、私を師匠として仰ぐということだ」と言った。
杉本瑠璃はこの言葉を聞いて、心が動いた。吉川先生を師匠として仰ぐのも悪くはなさそうだった。
外で多くの人が言っていたように、吉川先生の医術はかなり優れているようだった。これだけ多くの人が名を聞いて来ているということは、この吉川先生は性格が少し変わっているものの、医術は確かなものだということだ。
このような医師を師匠として持てるのは、良いことだろう。
これまで杉本瑠璃が最も接してきたのは医薬の分野で、しかも医師という職業は収入も良い。
俗っぽい考えではないが、彼女は今本当にお金が必要だった。
「承知しました」
吉川先生の口角が二度ほど引きつった。なぜか弟子を取ることが少し違和感のある展開になってしまった気がした。まるで杉本瑠璃が渋々承諾したかのように。
すでに人選が決まったので、吉川先生は再び仙人のような態度で外に出て、まだ帰らずに並んでいる人々と源様を見て、手を振りながら「薬草堂の主人は決まりました。皆さんお帰りください」と言った。
そして源様を一瞥もせずに、内側へと戻っていった。
まだ帰らずにいた人々は呆然とし、その後で議論を始めた。
「まさか、私たちこれだけの人数が不合格で、あの若い娘が選ばれるなんて?」
「あんなに難しい質問に全部正解したの?本当に運がいいね」
「こんな運の持ち主なら、宝くじでも買えばいいのに」
「まあ、もう帰るしかないね。私たちにはもう望みがない。でもあの娘は本当に運がいい。ふむふむ、こんな大きな薬草堂がそのまま彼女のものになるなんて」
皆は薬草堂が手に入らないと分かると、入り口で薬草を受け取って帰っていった。
「お嬢さん、これで弟子入りの儀式を始められる。そうそう、師匠はまだ君の名前を知らなかったな?」
吉川先生はようやく杉本瑠璃の名前を尋ねることを思い出した。
「師匠にお答えします。私は杉本瑠璃と申します」
既に弟子入りを決めた以上、吉川先生の行動が奇妙でも、彼女は敬意を示さなければならなかった。
「うむ、分かった。三回頭を下げて、お茶を一杯差し出せばいい。その他の形式ばった儀式は省くとしよう」
杉本瑠璃は少しまともになった吉川先生を見て、恭しく跪き、しっかりと三回頭を下げ、それから横のテーブルからお茶を一杯注いで、吉川先生に差し出した。
これが正しいやり方かどうか分からなかったが、テレビで見た弟子入りの様子を真似て、「師匠、お茶をどうぞ」と声をかけた。
吉川先生は茶碗を受け取り、一口飲んでから、横のテーブルに置いた。「うむ、お嬢さん、立ち上がっていいぞ」
杉本瑠璃は落ち着いて立ち上がり、吉川先生の前に立った。テレビでは、通常弟子入りの後、師匠が何か教えを説くものだったので、杉本瑠璃は黙って吉川先生の教えを待った。
「さて、小娘よ。これよりお前は正式にわしの弟子となった。ならば――さっそく、最初の課題を与えよう。」