第2章 読心能力

杉本瑠璃の言葉を聞いて、石川静香の曇った表情が一瞬で明るくなった。ついに、杉本瑠璃の口から自分と安藤颯こそが最もお似合いだという言葉を聞くことができたのだ。

「ハハハ、杉本瑠璃、まさかあなたもこんな日が来るとは思わなかったわ。今今日は気分がいいから、見逃してやるよ。さあ、行くがいい。」

杉本瑠璃は淡々と石川静香を見つめた。石川静香の顔には笑顔が浮かんでいるが、その目には依然として冷たい光が宿っていた。

【ふん、杉本瑠璃、私にへつらえば過去のことを水に流せると思ってるの?これはまだ始まりに過ぎないわ。私に殺されないように気をつけなさい!】

杉本瑠璃は激しく震えた。頭の中で何かが爆発したかのように、そんな言葉が耳に入ってきた。確かに石川静香の声だったが、彼女は口を開いていなかった。一体これは何なのか?

杉本瑠璃は再び石川静香を見つめたが、今度は何も聞こえなかった。しかし、視線を石川静香の周りの数人に向けると、様々な声が再び耳に飛び込んできた。

【やっと杉本瑠璃が終わったと思ったのに、今度は石川静香が目立ちやがって……なんかムカつくな。】

【安藤颯が彼女とデートする?はっ、絶対に私の安藤颯にしつこく付きまとってるだけよ。厚かましい女!】

【はぁ、毎日石川静香という女と付き合うのは本当に面倒くさい。杉本瑠璃よりも調子に乗ってて、世界が全て自分のものだと思ってるんだから、もう!】

聞こえてくる声の数々に、杉本瑠璃は驚愕した。だが、長年の経験から、彼女は取り乱すことなく冷静を装っていた。

そっと手を耳に当ててみたが、声は止まらない。それどころか、さらに鮮明に脳内に響き渡る。このままでは、頭が割れるような感覚だった。

明らかに、彼女たちは話していないのに、なぜこれらの声が聞こえるのか?もしかして、これは彼女たちの心の声なのか?

もしかして……私、読心術を使えるようになったのか?

そんな考えが突然頭に浮かんだ。以前テレビで特殊能力を持つ人の話を見たことがあり、読心術もその一つだった。

しかし、ドラマの世界はあくまでフィクション。エンディングには必ず「この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません」と注意書きがある。こんな非現実的なことが、自分に起こるなんて――

しかし、最も起こりえないはずの出来事が自分の身に起きた。転生さえ可能なのだから、読心術を持つことも、そこまで受け入れがたいことではないのかもしれない。

つまり、彼女は転生しただけでなく、読心能力という異能力も手に入れたということ。これは人生を完全に変えられるということを意味しているのではないか!

そう考えると、杉本瑠璃の心臓が胸の中で激しく鼓動を打ち始めた。何年も感じていなかった興奮を覚えた。

【ふん、もうすぐ杉本瑠璃の見せ場よ。先生に見つかったら、石川静香の財布が杉本瑠璃のカバンの中にあるって分かって、面白いことになるわ。】

杉本瑠璃は桑原穂乃(くわばら ほの)の目を見た瞬間、そんな声が頭に響いた。杉本瑠璃は表情を微かに変え、桑原穂乃を深く見つめた。

彼女の記憶の中では、桑原穂乃は家が没落した後、唯一、自分を嘲笑わなかった人だった。しかし――現実は違った。やはり、真実ほど残酷なものはない。

もし過去の杉本瑠璃が「純粋で優しい」存在だったなら、今の彼は「冷徹で残忍」そのものだ。

仇を討たないことは、決して彼女のモットーではない。彼女のモットーは単純で、仇はすぐに討つ、決して翌日まで待たない。なぜなら、翌日まで生きていられるかどうか分からないから。

長年の現実生活で、杉本瑠璃はそんな性格を身につけた。冷淡な性質が、今の彼女を最もよく表している。

みんなが石川静香にへつらっている間に、杉本瑠璃は既に静かに教室に入っていた。教室では掃除をしている人がいて、杉本瑠璃の席は真ん中にあり、桑原穂乃は杉本瑠璃から近い場所に座っていた。

休み時間を利用して、桑原穂乃が石川静香の財布を盗んで彼女のカバンに入れることは十分可能だった。

杉本瑠璃は落ち着いてカバンに触れ、手の動きが一瞬止まった。確かに彼女のカバンの中に財布が入っていた。つまり、彼女は本当に異能力を持ち、他人の心の中を読むことができるようになったのだ。

杉本瑠璃は一瞬黙り込んだ後、素早く財布を取り出し、桑原穂乃のカバンに入れた。

一連の動作は非常に素早く、誰にも見られなかった。杉本瑠璃は落ち着いてそこに座り、突然異能力を持つようになったことについて考えていた。

彼女はもっと実験する必要があった。この異能力をどのように使えばいいのか確かめるために。しかし今は、なるべく使わない方がいい。なぜなら使うたびに頭が痛くなるから。おそらく異能力を得たばかりで、まだ慣れていないのだろう。

しばらくすると、授業開始のチャイムが再び鳴り、みんな自分の席に戻った。桑原穂乃は杉本瑠璃をちらりと見て、何事もなかったかのように自分の席に座った。

「えっ!? 私の財布がない!」

突然、石川静香の大きな声が響いた。ちょうど教室に入ってきたばかりの教師も、その声を聞いて眉をひそめ、手に持っていた教科書を机に置いた。

「どうしたんだ?」

話したのは高校三年一組の担任の田中恵子だった。この時間は彼女の授業で、入室するなり石川静香が財布をなくしたと言うのを聞いて、当然特別な注意を払った。

「どこかに置き忘れたんじゃないかしら?もう一度よく探してみて。学校の中なら、なくなるはずないわ」

田中恵子のクラスでは今まで盗難事件が起きたことはなく、まさか今日、生徒の財布がなくなるとは思わなかった。

「ないわ、何度も探したけど。授業中はあったのに、絶対誰かが盗んだに違いない!」

石川静香は非常に怒っていた。誰かが彼女のお金を盗むなんて、もし捕まえたら決して許さないつもりだった。

田中恵子(たなか けいこ)は石川静香がこれほど怒っているのを見て、事態の深刻さを理解した。皆を厳しい目で見ながら、真剣な口調で言った。「もし誰か間違えて石川さんの財布を取ってしまった人がいたら、先生は出してきてほしいと思います。私たちのクラスではこのような事件は今まで一度もなく、これからもあってはいけません。誰か間違えて取ってしまった人は、今すぐ出してください。責任は問いません」

長年教師を務めてきた田中恵子は、もちろんこのような状況にどう対応すべきか知っていた。これらの言葉は、ただ生徒たちに心理的プレッシャーをかけるためのものだった。もし本当に誰かが「間違えて」取ったと認めたら、後で田中恵子が責任を問わないはずがなかった。

みんなが小声でささやき合い、お互いを見合っていたが、誰も名乗り出る者はいなかった。

「田中先生、カバンを調べてみませんか?もしクラスの誰かが取ったのなら、他の場所に隠せるはずがありません。調べれば分かるはずです」

思いがけず最初に発言したのは桑原穂乃だった。石川静香はそれを聞いて、すぐに同意した。「そうよ、カバンを調べましょう。誰が私の物を盗んだのか、見てやるわ!」

みんなはカバンを調べられるのを嫌がったが、石川静香の家柄と田中恵子の主張に押され、一人一人がカバンを調べられることに同意した。

杉本瑠璃は冷静な表情を保ちながら、桑原穂乃の口角が微かに上がるのを見た。まるで陰謀が成功したかのような得意げな様子だった。

しばらくすれば、彼女は笑えなくなるだろう。杉本瑠璃の前で陰謀を企てるなんて、本当に暇を持て余しているとしか思えない!

彼女はこれらの子供たちよりもずっと長く生きてきて、今は転生して戻ってきた上に、読心までできる。彼女と心理戦を仕掛けるなんて、あまりにも愚かすぎる。

教師が一人ずつカバンをチェックし、ついに杉本瑠璃の順番が回ってきた。予想通り、桑原穂乃の目には期待に満ちた光が宿っていた。彼女はまるで、これから始まる「面白い劇」を楽しみにしている観客のような顔をしていた。