原石が重かったため、七、八人の大柄な男たちが前に出て手伝い、原石を原石切割機の横まで運んだ。吉田太郎は手を洗い、手袋をはめて、原石切りを続けた。
羽田和彦も杉本瑠璃の目利きがどうなのか知りたくて、その場を離れず、杉本瑠璃の横に立って原石切りを見守っていた。
この原石は品相がよく、杉本瑠璃が前に選んだ廃石と比べれば百倍はマシだと彼は思った。
吉田太郎は少しも手を抜かず、原石を切る時は十分に注意を払った。今回の原石切りは明らかに前回よりも神経を使うものだった。吉田太郎は杉本瑠璃の要求通り、台磨き機で一方向に向かって直接切り込んでいった。
通常、このような切り方は非常に危険で、もし不注意に翡翠を切ってしまえば、数千万円が数十万円になってしまうこともある。時には、この一刀が決定的な役割を果たすこともある。
吉田太郎の判断に任せられれば、こんな危険な切り方はしない。時間をかけてでも、吊り磨き機で少しずつ窓を開けていく方が良い。そうやって少しずつ磨いていく方が、一刀で切るよりもずっと安全だ。
しかし杉本瑠璃がそう要求したので、彼女の言う通りにするしかなかった。
幸い、この一刀で翡翠を切ることはなかった。その後、杉本瑠璃は吉田太郎の作業に干渉せず、ゆっくりと磨かせた。
杉本瑠璃がこうしたのには根拠があった。手のひらの感触の強弱で、どの部分が翡翠の可能性が高いかを感じ取れたのだ。正直なところ、今の彼女の心は少し興奮していて、この翡翠がどんな種類なのか知りたくてたまらなかった。
ここでは、誰かが原石を切り始めると、すぐに大勢の見物人が集まってくる。皆、首を伸ばして結果を見ようとしていた。
中には議論を始める人もいた。
「翡翠は出るかな?」
「わからないね。正直言って、あの娘の目利きはあまり良くない。前に選んだ原石だって廃石だったじゃないか。羽田様が金を出さなければ、あんな廃石なんて値打ちもなかったよ。」
「でも私が見るに、この古坑の原石は品相が悪くないよ。もしかしたら本当に翡翠が出るかもしれない。でも、羽田様は一体何のつもり?お金を出したり、付き添ったり、もしかして、あの娘に気があるのかな?」
「シーッ!余計なことを言うな。羽田様が遊び人として有名なのは誰でも知っている。趣味は二つだけ、翡翠と美女だ。あの娘は若いけど、美人になることは間違いない。」
「ツッ、ひどいな。こんな若い娘に手を出すなんて。」
もしこれらの話が羽田和彦の耳に入ったら、きっと激怒することだろう。彼が杉本瑠璃という小狐狸に手を出す?
ふん、冗談じゃない。
人々の議論が白熱している時、吉田太郎が再び興奮した声を上げた。「出た...翡翠が出た!また翡翠が出たぞ!」
えっ?
本当に翡翠が出たの!
この娘の運の良さは尋常じゃない!
吉田太郎は人々の驚嘆の声に気を取られることなく、すぐにミネラルウォーターを一本かけ、きれいなハンカチで拭いた。すると、鮮やかな緑色が目に飛び込んできた。
杉本瑠璃はその緑色を見つめ、ようやく顔に喜色を浮かべた。羽田和彦でさえ、わずかに目を向け、目に驚きの色を浮かべていた。
「吉田さん、早く続けてください。全部見せてください!」
群衆の中から、すぐに吉田太郎を急かす声が上がった。翡翠全体がどんな様子なのか知りたがっていた。
「ちょっと待って!」
金縁の眼鏡をかけた中年の男性が前に出てきた。常連客の何人かは彼を認識していた。
この男性は山田ひろしといい、Y市最大の宝石店の社長だった。彼はよくここに来ていたので、多くの人が彼を知っていた。
吉田太郎は山田ひろしを一瞥し、すぐに彼の意図を理解した。「山田社長、半賭け原石を提案なさるんですか?」
いわゆる半賭け原石とは、原石に窓を開け、翡翠が少し見えた後で行う賭石のことだ。
この種の賭石は、チャンスとリスクが共存している。時には直接原石を賭けるよりもスリリングなこともある。
原石に窓を開けて緑色が見えたからといって、必ずしも中に翡翠があるとは限らない。杉本瑠璃の先ほどの原石のように、実際には薄い緑の層だけで、残りは全て石ということもよくある。
そして、このように翡翠が見えている原石は、価格が大幅に上がる。
山田ひろしは頷いて、「その通りです。僕はそのつもりですが、お嬢さんは半賭けをお考えでしょうか?」
山田ひろしは杉本瑠璃がこの分野に詳しくないと考えたようで、さらに丁寧に説明を加えた。「緑色が少し見えたからといって、中に翡翠があるかどうかはまだわかりません。今この原石を手放せば、あなたにとっては確実に利益が出る取引になりますよ。」
つまり、これからのリスクを負う必要がないということだ。
翡翠が出ようが出まいが、杉本瑠璃は確実にお金を手にすることができ、リスクは他人に任せることができる。
「申し訳ありませんが、半賭け原石の予定はありません。吉田社長、続けてください。」
彼女は確信していた。この原石の中には間違いなく翡翠がある。だから半賭けをする必要はなかった。
山田ひろしも強要はしなかった。このような事は常に自由意志によるものだ。杉本瑠璃が売る気がないなら、見ているだけにしよう。
吉田太郎は窓を開けた部分に沿って、より小さな工具に持ち替え、慎重に磨いていった。すぐに、両手のひらほどの大きさの緑色が現れた。
「おっ!なんと高氷種じゃないか。この様子だと、中の翡翠はかなりの大きさがありそうだ!」
「もし中が全部翡翠なら大金持ちだな。高氷種の翡翠なんて、なかなか出会えないぞ!」
「くそっ、まさか今日、高氷種翡翠の原石切りの全過程を見られるとは思わなかった。興奮するな。後で自慢話ができるぞ!」
「まだ興奮するな、続きを見よう、続きを!」
毎日翡翠原石を買う人は多いが、その場で原石を切って翡翠が出るのは少ない。今回、突然高氷種という極上品が出たのだから、騒ぎにならないはずがない。
翡翠の良し悪しは多くの要素で判断される。まず種を見るが、その中で最高級なのはガラス種で、非常に稀少だ。次いで氷種となるが、氷種にも品質の違いがあり、高氷種のような水種は確かに貴重だ。
高氷種という水種が目の前にあれば、たとえ切り出した後の翡翠の透明度が期待ほど高くなかったり、ヒビが入っていたりしても、価格はそれほど下がらない。
だから人々は高氷種だと分かった途端、このように沸き立ったのだ。
高氷種一つは、即ちお金を意味する。
山田ひろしは元々杉本瑠璃の原石を買いたかったが、それが高氷種だと分かった今、落ち着いていられなくなった。「お嬢さん、本当に全部切り出すおつもりですか?今売ってくれるなら、一億円出しますよ!」
この価格は非常に高額だ。杉本瑠璃の原石はたった数万円だったのに、今や一瞬で百倍になり、しかも原石のほんの一部を切り出しただけの段階での話だ。
羽田和彦はずっとそこに立って黙っていたが、心の中では非常に驚いていた。彼は高氷種の翡翠を多く所有しているが、杉本瑠璃という素人の女性がこれほど良い原石を選び出すとは思わなかった。
たとえ彼が自ら選んでも、これほど良い原石を見つけられるかどうか分からない。
つまり...この杉本瑠璃は間違いなく天運の持ち主だ!
吉田太郎も杉本瑠璃が初心者だということが分かっていたので、アドバイスした。「山田社長の提示額は悪くないですよ。私の経験からすると、この翡翠は切り出しても人の頭ほどの大きさにはならないでしょう。一億円なら損はしませんよ。」
吉田太郎は完全に杉本瑠璃の立場に立ってアドバイスをしたのだが、残念ながら、杉本瑠璃には本当に売る気がなかった。