先ほど翡翠に気を取られていて、忘れるところだった。羽田和彦という遊び人が彼女に付け込もうとして、今では彼女の翡翠を奪ってしまった。
まさに傲慢な社長そのものだ!
羽田和彦は三色翡翠をしっかりと抱きしめ、数歩後ずさりして、警戒するように杉本瑠璃を見つめた。「何のつもりだ?」
まるで杉本瑠璃が彼を強要しようとしているかのような眼差しに、杉本瑠璃は心の中で大きく目を回した。「羽田様、あなたが持っているのは私の翡翠ですよね。まだ売ると言ってもいないのに、こんな強引な方法で奪うなんて、いいんでしょうか?」
羽田和彦も自分のやり方が少々不適切だと気付いたが、この三色翡翠への愛着があまりにも強く、仕方なく尋ねた。「言ってくれ、いくらなら売ってくれる?」
売るもんか、あんたの家族全員が売れば!
杉本瑠璃は羽田和彦の言葉を聞いて、心の中で毒づきながらも、表情は変えなかった。
杉本瑠璃が言葉を発する前に、傍らで翡翠を見つめていた山田ひろしも我慢できなくなり、急いで言った。「羽田様、この三色翡翠はこの娘さんのものです。彼女が売るとしても、自由競争入札にすべきでしょう。ここで三色翡翠に興味を持っているのは、私たち二人だけではないはずです。」
特別な事情がなければ、山田ひろしも羽田和彦の機嫌を損ねたくはなかった。羽田様に目を付けられるのは、決して良いことではない。
「ふん、私と争うつもりか。」
羽田和彦の表情が少し暗くなり、口元に火のような笑みを浮かべ、細めた凤眼で、眉間に殺気が走った。
そんな羽田和彦を見て、杉本瑠璃は驚いた。軽薄な羽田和彦にこんな一面があるとは思わなかった。
山田ひろしは羽田和彦にそれほど脅かされ、全身汗だくで、顔色が土気色になった。
杉本瑠璃は横目で見た。羽田和彦は...そんなに凄いのか?
Y市最大の宝石店の店主をここまで恐れさせるほど?
こういう人物とは、距離を置いた方が良さそうだ。
おそらくこの人生でも、彼女は羽田和彦の高みに達することができるだろうが、それは今ではない。
羽田和彦の強気な態度に、結局山田ひろしは降参し、まるで宝物を失ったかのように、すっかり意気消沈してしまった。