羽田和彦は黙ったまま、杉本瑠璃を見つめ、後ろにいる女性のことなど完全に忘れていた。その女性は必死に存在感を取り戻そうとしていた。
「蒼ちゃん、誰を探してるの?部屋番号は分かってる?」
杉本瑠璃は目を流し、何かを考えているようだった。そして羽田和彦を見つめ、意味深な口調で言った。「1208号室、三島様です」
ドーン!
なんだって?
三島悠羽のところへ?!
羽田和彦は驚きの表情で杉本瑠璃を見つめ、一瞬で理解し、また驚きを隠せなかった。
杉本瑠璃は表面上は冷静を装っていたが、心の中では一つのことを確信していた。
師匠の言う三島様と、羽田和彦の知る三島様が、同一人物だということを。
三島グループの謎めいた若き後継者が、障害者だったなんて!
杉本瑠璃は頭の中が混乱していた。これは全く予想外のことで、おそらく爆発的なニュースになるだろう。
この瞬間、杉本瑠璃は少し理解した。師匠が彼女に薬を届けに行かせたのは、完全な罠だったのだ。
三島グループの若き後継者、そんな高貴な存在が障害者だとは。その心の落差は相当なものだろうし、決して扱いやすい相手ではないはずだ。
師匠が手に負えなかったのも無理はない。むしろ、杉本瑠璃は考えた。吉川先生が突然弟子を探し始めたのは、三島様というお荷物を押し付けたかったからではないだろうか。
そして不運なことに、彼女が吉川先生の弟子になってしまった。
はぁ!
杉本瑠璃は深いため息をつき、来たからには仕方がないと思った。
「三島様を探しに来たの?もしかして本当に特別な関係があるの?」
羽田和彦は杉本瑠璃を見る目が輝きを増し、その表情は実に興味深いものだった。
「知りません。会ったこともありません」
おそらく...会ったことはあるはず。薬草堂の前で、車椅子に座った横顔を一瞬見かけた時。
たった一つの横顔だけで、忘れられない印象を残した。杉本瑠璃にはその理由が分からなかった。確かにその人の顔ははっきりと見えなかったが、その人物には人を引き付ける何かがあった。
杉本瑠璃の答えを聞いて、羽田和彦は驚き、さらに混乱した。
「知らないって?本当に知らないの?」
思わず、羽田和彦は重ねて尋ねた。三島様は二人は親密な関係だと言っていたはずだ。
どうして知らないはずがある?