本来、石川賢明は杉本瑠璃に威圧感を与えようとしたのだが、どうやらその効果は得られなかったようだ。
杉本瑠璃の様子を見ると、少しも怯えている様子はない。
ちょっと待て。
横に座っているあの男は一体誰だ?
「杉本瑠璃一人だけを連れてくるように言ったはずだ。なぜ余計な人間を連れてきた!金が要らないとでも言うのか!」
石川賢明は典型的な小人物が出世して調子に乗るタイプの人間だった。
彼は今や以前とは違う。昔は孫のような立場だったが、今は親分面をして威張り散らしている。
日向あきらは顔色を変え、冷たい表情で言った。「石川社長、約束を反故にするつもりですか?」
石川賢明は思わず数歩後ずさりしたが、日向あきらが殴りかかってこないのを確認すると、ビール腹を突き出して言った。「仕事が済んだら、ちゃんと金は払うさ」
そして、石川賢明は日向あきらから目を離し、杉本瑠璃の前に立って陰険な顔で言った。「俺の帳簿はお前のところにあるんだな?」
「ふふ、あなたの帳簿が、なぜ私のところにあるのかしら?」
杉本瑠璃は軽く笑いながら、少しも石川賢明を恐れる様子はなかった。
石川賢明は笑みを浮かべる杉本瑠璃を見て、怒りが込み上げてきた。自分が彼女を誘拐したというのに、まだ笑っているとは。
今自分がどんな状況にいるのか分かっていないのか!
「お前ら、こいつを縛れ。今日は帳簿を出すまで帰さんぞ。ふん、叔父さんが冷たいと思うなよ。お前を扱う方法なら、いくらでもあるんだ!」
石川賢明は下卑た笑みを浮かべ、杉本瑠璃を軽蔑的に見つめた。彼の考えでは、杉本瑠璃が今は落ち着いているように見えても、所詮誘拐されているのだから、怖くないはずがない。
ただ強がっているだけだろう。
あの日、宝石の競り場で吉田太郎が彼を殴り、杉本瑠璃も愛する娘を蹴り、さらに手に入れたばかりの五百万円が消えてしまった。彼はずっと鬱憤を溜めており、杉本瑠璃に仕返しをしたいと思っていた。
思いがけず、田中恵子先生が訪ねてきて彼を罵倒し、そこで初めて失くした帳簿が杉本瑠璃の手に渡っていることを知った。
この数日間、食事も喉を通らず、眠れない日々が続き、どうすべきか考え続けていた。
娘の石川静香の一言で目が覚めなければ、まだ杉本瑠璃をどうすればいいか分からなかっただろう。