誘拐犯たちは、この二人がこんなに素直だとは思わなかったので、彼らをあまり苦しめることはしなかった。
今の彼らの任務は、とりあえず二人を連れて行くことだった。
杉本瑠璃は三島悠羽の車椅子を押しながら、黒いワゴン車の横まで行くと、誘拐犯の一人が悠羽を担ごうとした。
三島悠羽は軽く手を上げただけで、皆の前で立ち上がり、長い脚で車内に乗り込んだ。
「足が不自由じゃないのに、なんで車椅子に乗ってるんだ!」
手下の一号が驚いて言うと、リーダーは彼を睨みつけた。「余計なことを言うな。足が不自由じゃないなら、むしろ良かったじゃないか。俺たちが苦労しなくて済む。行くぞ。」
杉本瑠璃も車に乗り込み、三島悠羽の隣に座った。三島悠羽の車椅子は置き去りにされ、寂しげにその場に残された。
この誘拐犯たちは、おそらく初めてこのような仕事をするのか、杉本瑠璃と三島悠羽の目隠しをすることも忘れていた。
杉本瑠璃は安易に読心を使わなかった。読心の回数には制限があり、むやみに使うことはできない。場所に着いてから状況を見て判断することにした。
この時、杉本瑠璃の心の中では、どうやって脱出するかを考えていた。
三島悠羽は体調が良くない。彼を置いていくわけにもいかない。今は車椅子もなく、歩くことはできるものの、もしこの人たちが二人をあまりにも人里離れた場所に連れて行くなら、歩くだけで三島悠羽がもつかどうか分からない。
杉本瑠璃の心が揺れている一方で、三島悠羽はずっと落ち着いていた。座ったまま目を閉じ、赤い唇を引き締めて、まるで休息を取っているかのようだった。
しかし、杉本瑠璃が何度か視線を向けると、三島悠羽はすぐに目を開け、彼女の視線を捉え、安心させるような眼差しを返した。
なぜか、心の中にあった不安は瞬く間に消え去り、完全に落ち着きを取り戻した。
道中、杉本瑠璃は目を閉じることなく、万が一に備えて密かに道順を記憶していった。
車の中で、手下の一号はリーダーと話をしていた。
「親分、人命に関わることにはならないよな?俺には妻も子供もいるんだ。こんな大きな事件に巻き込まれたくないんだ。」
「藤原、お前の妻子のためじゃなかったら、俺たち兄弟が誘拐なんてするか?」
リーダーの日向あきらは手下の一号、藤原春樹という男を見て、声には諦めが滲んでいた。