第57章 私の兄はイケメン

少女は長い間悩んだ表情を浮かべ、周りを見回してから言った。「他の場所はここほど良い位置じゃないの。ここなら全景が見えるし、私はここが好きなの」

桐生誠一はそんなことは気にもせず、目を転がして言った。「僕だってピラミッドが好きだけど、だからって自分をミイラにしてまで入りたいとは思わないよ」

プッ!

斎藤きくこと杉本瑠璃は笑い出した。瑠璃は桐生誠一の話術の凄さを目の当たりにした。さすが敏腕弁護士だと納得した。

少女は一瞬呆然としたように見えた。瑠璃は少女が怒り出すかと思ったが、意外にも少女もプッと笑い出し、不機嫌な様子は見せなかった。

「ピラミッドが好きなの?入りたい?私が案内できるわよ。ミイラになる必要なんてないわ」

瑠璃と斎藤きくこは目を合わせ、呆然とする桐生誠一を見て、大笑いした。

珍しく桐生誠一が言い返せなくなるのを見て、その困った様子が本当に面白かった。

「そう?僕は夢の中でよく行くから、案内してもらう必要はないよ」

桐生誠一は遠慮なく返した。少女は綺麗な大きな目をパチパチさせ、笑いながら言った。「私が白昼夢を見ているって皮肉ってるの?分かるわよ」

桐生誠一は「珍しく自覚があるんだね」とだけ言った。

少女は唇を尖らせ、「信じてくれないなんて。だめ、絶対にピラミッドに連れて行ってあげる。でないと本当に冗談だと思われちゃう!」

桐生誠一は彼女を無視した。少女はしばらくして本題を思い出した。「あのね、さっき言ったように、私ここに座りたいの」

桐生誠一は眉をひそめた。さっきはっきり言ったはずなのに、この子は分からないのか?

桐生誠一が直接追い払おうとした時、瑠璃は少女を見て言った。「私たちはまだ休憩が足りないけど、ここに座りたいなら相席は構わないわ」

少女は少し考えてから「じゃあ、いいわ。でも私は二人よ。お兄ちゃんが一緒に来てるの。今、私の綿あめを買いに行ってるの」

自分の兄について話す時、少女は甘い表情を浮かべた。聞くまでもなく、この少女には思いやりのある良い兄がいるのが分かった。

桐生誠一はこの少女があまり好きではなかったが、瑠璃が言い出したので、瑠璃の顔を立てることにした。

少女は座ると瑠璃の方を向き、明るく言った。「私は羽田真央よ。みんなの名前は?」

「杉本瑠璃です」

「斎藤きくこです」

「僕は、桐生誠一」