第62章 有名な伊藤様

「山田社長、他の人も一緒に行くって言ってたじゃないですか?」

杉本瑠璃は不思議に思い、尋ねた。

山田ひろしは無理に笑みを浮かべ、諦めと挫折の混ざった声で言った。「はぁ、長い話なんですよ。今回は私たち数人だけになってしまいました」

そう言うと、山田ひろしは寂しげなため息をついた。後に飛行機の中で、杉本瑠璃は事情を知ることになった。

この山田ひろしも運が悪かった。以前、会社の専門技術者たちが一斉に辞めてしまい、やっと見つけた数人の経験者も、突然次々と心変わりして行かないと言い出したのだ。

出発直前のドタキャンで、山田ひろしは途方に暮れたが、他の人を探す時間もなかった。

彼は最初、杉本瑠璃に期待していなかった。結局のところ、瑠璃はまだ子供で、経験不足に見えたからだ。ただ運がよさそうというだけだった。

しかし思いがけないことに、最後まで協力を申し出てくれたのは杉本瑠璃だけだった。

「山田社長、誰かに恨みを買ったんですか?それとも、ライバル会社が意図的に妨害しているとか?」

杉本律人も山田ひろしの話を聞いて、長年のビジネス経験から疑問を投げかけた。

山田ひろしは少し躊躇した後、ついに話し始めた。

「正直に申し上げますと、確かに同業者からの妨害を受けているんです。最初は気にしていませんでしたが、あまりにも偶然が重なるので調べてみたら、やはり同業者による意図的な妨害だとわかりました」

山田ひろしはもう隠す必要もないと思い、すべての経緯を話した。誰かに打ち明けたかっただけなのかもしれない。

「もともと私の宝石店はY市でも指折りの規模を誇っていました。従業員にも良く接してきたつもりです。ところが最近、Y市の中心部に山本宝飾という新しい店がオープンし、急成長して大きな勢力になろうとしています。

最初は互いに干渉せずにいられると思っていたのですが、先日から山本宝飾が私の会社の技術者たちを引き抜き始めたんです。

宝石業界では、技術者の確保が非常に難しい。新しい専門家を見つけるのにも時間がかかります。でも今回の玉石大会は待ってくれません。この機会を逃せば、損失は計り知れません。

だからこそ、誰かに同行をお願いしたかったんです。最初は何人かの同業者が承諾してくれたのに、結局このような結果になってしまいました」