山口小百合は恥ずかしそうに微笑んで、「お部屋で話してもいいですか、恩人様?」と尋ねました。
そんな可愛らしい山口小百合を前に、杉本瑠璃は断れるはずもなく、体を横に寄せると、山口小百合は部屋に入ってきました。
山口小百合は入室すると、部屋を見回してからソファに座り、すっかりくつろいでいる様子でした。
「私たちの部屋のレイアウトって似てるんですね。でも私の部屋の方が少し広いみたいです」
杉本瑠璃は山口小百合を一瞥してから、自然に彼女の向かいに座り、お茶を差し出しました。
「山口さん、こんな遅くに何かご用でしょうか?」
山口小百合はお茶を一口飲んでから、カップをテーブルに置き、「特に用事はないんです。ただ恩人様にお会いしたくて、それと、お礼を言いたくて」
杉本瑠璃は丁寧に微笑むだけでした。「些細なことです。気にしないでください。大したことはしていませんから」
山口小百合は激しく首を振り、真摯な表情で「いいえ、違います。私の命を救ってくださった。あなたは私の恩人で、山口家の大恩人なんです」
山口小百合の主張に、杉本瑠璃は苦笑するしかありませんでした。最近、彼女の人徳が急上昇したのか、みんなが競って恩人と呼んでくれる。一時的に、まだ慣れない感じでした。
「恩人様、実は私、自分の命なんてどうでもいいんです。どうせこの体じゃ、早く死ぬか遅く死ぬかの違いだけだって分かってますから」
山口小百合の声は明るく、悲しみの色は全くありませんでした。まるで自分の命が長くないという現実を簡単に受け入れているようでした。
「でもね、父が私のことを心配しすぎるんです。私が父の唯一の肉親だから、私に何かあるたびに、大勢の人を巻き込んで心配してしまうんです。あの日は父が悪かったんです。私は既に叱っておきました。父も自分が間違っていたことを分かっています。へへ、だから今日はホテルのレストランを貸し切って、お詫びの食事に誘おうとしたんです」
やはり、夜に食事に誘った人は山口健太でした。
「お詫びの食事は必要ありません。言った通り、些細なことですから」
しかし山口小百合は首を振り続けました。「違うんです。あなたにとっては些細なことかもしれませんが、父にとっては違うんです。あなたは父の大切な娘を救ってくれたんですから。