第89章 標的の中の標的

「桐生誠一」

「はい!」

斎藤きくこは桐生誠一に向かって頑張れのジェスチャーをし、杉本瑠璃も桐生誠一に微笑みながら頷いた。桐生誠一は決意に満ちた眼差しで杉本瑠璃と斎藤きくこにウインクを返すと、すぐに壇上に上がり、山本主任の振り分けを待った。

山本主任は名簿に目を通し、桐生誠一を見つめた。

「今回の面接で、稀有な弁論の才能を持つ者がいると聞いていた。法学部の主任までもが君を褒めていたそうだ。確かに人材だ!」

山本主任の笑顔には何か不気味なものがあり、杉本瑠璃は眉をひそめた。何かがおかしいと感じていた。

桐生誠一は落ち着いていて、謙遜もせずに「山本主任、私はどの学部に配属されますか?」と尋ねた。

山本主任の言葉には触れず、ただ自分の学部を聞いただけだった。

山本主任は一瞬躊躇してから「桐生誠一、法学部だ」と答えた。

「はい、主任」

そう言うと、桐生誠一は降壇し、杉本瑠璃の側に来て、顔を曇らせながら「主任とはあまり話さない方がいい。何が起こるか分かったよ。私たちは的にされたんだ」と言った。

斎藤きくこは一瞬驚いたが、すぐに理解した。「なるほど、だから上級生たちの表情があんなに変だったのね。これからの生活は楽じゃなさそうね」

杉本瑠璃は紅葉学園が面白いと感じていた。学校は意図的に新入生たちを風当たりの強い立場に置き、校長の言葉さえも深い意味を持っていた。

面接で新入生の審査は終わったと思っていたが、それは前菜に過ぎず、入学後が本番だったのだ。

上級生たちが新入生に何をするのか、そして新入生たちが上級生の「試練」に耐えられるのかは分からない。

すぐに斎藤きくこの番になり、医学部に配属された。面接の際に将来医者になりたいと表明したため、医学部に配属されたという。

そして、杉本瑠璃の番が来た。

杉本瑠璃の名前が呼ばれると、山本主任はまず一瞬躊躇し、それから杉本瑠璃を観察し始めた。故意なのか偶然なのか、山本主任は長い間杉本瑠璃を見つめていた。

壇上に長く留まれば留まるほど、下にいる上級生たちに記憶される可能性が高くなることは誰もが知っていた。

この時期に覚えられることは、決して良いことではなかった。