第116章 薬を盛られ、一人で舞台へ

幸い羽田和彦は空気が読めたようで、杉本瑠璃を見て、少し言い合いをした後、堂々と楽屋を後にした。

安藤颯たちの演目も杉本瑠璃の前だったが、安藤颯の演目には多少のトラブルがあった。とはいえ、無事に終えることができ、大きな問題にはならなかった。

ただし、安藤颯は舞台を降りた後、顔色が悪く、不機嫌そうだった。

それを見た桐生誠一は大いに楽しんでいた。安藤颯が恥をかくのを見るのは気分がよかったからだ。

「蒼、私たちの演目は終わったけど、新入生の活動で残っているのは君と鈴木ゆうすけだけだな。しかし、鈴木のやつ一体どこに行ったんだ?まだ姿も見えないけど」

桐生誠一は左右を見回し、傍らに立つ北澤亮太を見た。

北澤亮太も首を振り、鈴木ゆうすけを見かけていないことを示した。

「あいつ、まさか逃げ出したんじゃないだろうな。衣装を着替えるだけなのに、子供を産むより時間がかかってるぞ!」

桐生誠一は少し焦っていた。杉本瑠璃も何か様子がおかしいと感じていた。鈴木ゆうすけは逃げ出すような人ではないが、こんなに長く戻ってこないのは確かに異常だった。

「更衣室を見てきます」

北澤亮太は自ら進んで男子更衣室に向かったが、すぐに戻ってきた。「誰もいません。鈴木ゆうすけはいませんでした」

「えっ?いないだって?まさか、本当に逃げたのか?」

桐生誠一は驚いて、自分の口を何度か叩いた。自分の不吉な言葉が悪かったと思った。

「急いで探そう。この鈴木ゆうすけって本当に頼りないな!」

桐生誠一は急いで仲間たちを動員し、一緒に鈴木ゆうすけを探し始めた。そして杉本瑠璃の視線が安藤颯と合った時、彼女の目が暗くなった。

安藤颯の様子がおかしかったので、杉本瑠璃は読心を使った。

案の定、安藤颯が仕掛けたのだった。

「桐生誠一、トイレを見てきて」

杉本瑠璃の表情も良くなかった。安藤颯、今回は本当に彼女の逆鱗に触れた。

桐生誠一は杉本瑠璃の言葉を聞いて、すぐにトイレに向かった。そこで、トイレで倒れかけていた鈴木ゆうすけを見つけた。

鈴木ゆうすけをトイレからほとんど担ぎ出すように連れ出し、桐生誠一は怒り心頭だった。彼はバカではない。さっきまで何ともなかった鈴木ゆうすけが、突然トイレで気を失いそうになるほど腹を壊すはずがない。

杉本瑠璃は顔色の悪い鈴木ゆうすけを見て、尋ねた。「大丈夫?」