「坊ちゃま、お戻りになりましょう」
朝日執事は初めて三島悠羽の車椅子を押すことを控えた。彼から見れば、三島様と杉本瑠璃のコンビは非常に目を楽しませるものだったので、邪魔をしないことにした。
三島悠羽は首を振り、周囲を見回した後、目に鋭い光を宿して言った。「残念ながら、そう簡単には帰れないようだ」
その言葉が終わるや否や、朝日執事は即座に三島悠羽と杉本瑠璃を守る体勢を取った。その身のこなしは実に鋭く、杉本瑠璃を驚かせた。朝日執事が武術の達人だとは思いもよらなかった。
三島悠羽の運転手も即座に飛び出してきて、三島悠羽と杉本瑠璃を車に押し込もうとした。杉本瑠璃もすぐに状況を把握した。
危険が迫っている!
傭兵だ!
その時、杉本瑠璃と三島悠羽は素早く動いたものの、車のそばまでしか到達できなかった。杉本瑠璃の左側の車に、突然銃弾の痕が現れ、ドンという鈍い音が響いた。
杉本瑠璃は心臓が震えた。やはり傭兵の仕業だ。あの信用できない誘拐犯よりもずっと手強い。銃にはサイレンサーまで付いている。
杉本瑠璃が考える間もなく、周囲の車に次々と銃弾が命中し、火花が散った。
「早く車に!」
ここは人気が少なく、しかも山奥だ。清明節でもないこの時期に、墓参りに来る人はほとんどいない。周囲は開けており、隠れる場所も全くない。先ほど確認したところ、この車は防弹仕様のようだ。今は車の中が最も安全だ。
運転手と朝日執事は自分の体で三島悠羽を守っていた。三島悠羽は車椅子に座ったまま、不自由な様子だった。奇妙なことに、三島悠羽は立ち上がろうとしなかった。杉本瑠璃は首を傾げた。彼は歩けるはずなのに、なぜこんな重要な時に車椅子を手放さないのだろう?
「朝日、杉本先生を守れ!」
三島悠羽は銃弾の雨に晒されながらも、少しも動揺した様子を見せず、しかしその口調は断固としていた!
朝日執事は一瞬躊躇い、いつものように素直に杉本瑠璃を守りに行くことはしなかった。
三島悠羽は再び低い声で言った。「言った通りにしろ」
「はい、坊ちゃま!田中さん、必ず坊ちゃまをお守りください!」
朝日執事は運転手の田中さんに厳かな声で言い、そして位置を譲り、体を移動して杉本瑠璃の左側に来て、体で杉本瑠璃全体を覆った。
一方で杉本瑠璃を守りながら、車のドアを開けようとした。