第196章 お前は私に体を洗わせたいのか(10)

「馬鹿な!」

伊藤さやかの父親は妻を制止し、「今日ここに来た目的を忘れるな。嫌な思いをさせられても、吉川先生に治療してもらうためには、今までにない屈辱も耐えなければならないんだ!」

もし杉本瑠璃に読心の能力がなければ、この男にまだ度量があると信じたかもしれない。

しかし残念ながら、彼女には読心ができ、彼の本心を見抜いていた。

もし彼が言葉通りの人物なら、このタイミングでそんな言葉を言うはずもないし、娘が杉本瑠璃を殴るのを見過ごすこともなかったはずだ。

この時点でそう言い出したのは、道徳的な圧力で杉本瑠璃を追い詰めようとしているだけだ。

ふん、さすが年の功というところか。

しかし杉本瑠璃はどんな人間か。一度死を経験した彼女が、こんな低レベルな道徳的圧力に屈するはずがない!

「田中さん、この方に瘀血を取り、腫れを引く薬を用意してあげて。待ちたければ待たせておけばいい。普段の商売の邪魔にならなければそれでいいわ」

伊藤さやかの父親は、あれだけ言ったのに杉本瑠璃が全く動じる様子もなく、まるで何も聞こえなかったかのように振る舞うのを見て驚いた。

一方、伊藤さやかは怒りで頭から湯気を立てていた。これはどういうことだ?平手打ちの後にアメをくれるという話は聞いたことがあるが、平手打ちの後に薬をくれるなんて聞いたことがない!

顔は腫れているのに、目的も達成できていない。これはどういうことだ!

杉本瑠璃はそう言うと、それ以上留まることなく裏庭へと向かった。

裏庭に入るなり、杉本瑠璃は師匠の吉川先生が部屋にいるのではなく、裏庭に座っているのを見つけた。

「師匠、どうしてここに座っているんですか?」杉本瑠璃は吉川先生の前まで歩み寄り、石の椅子に腰を下ろした。

吉川先生は杉本瑠璃を見て少し驚いたが、すぐにツンデレな態度を取り、怒ったふりをして言った。「ふん、この生意気な娘め。やっと師匠のことを思い出したか。弟子を育て上げたら、師匠のことなど忘れてしまうものかと思っていたぞ!」

「ふふ、師匠、これは甘えているということでしょうか?もし私の記憶が正しければ、閉関して人に邪魔されたくないと言ったのは師匠の方ですよ」