第230章 三島悠羽の心事(4)

杉本瑠璃はもちろん水瀬霧乃のことを認識していた。そして、水瀬霧乃の隣にいた上品な婦人は、杉本瑠璃にとって初対面だった。

ただ、この上品な婦人の顔が少し見覚えがあるような気がしたが、どこで見たのか思い出せなかった。

「お久しぶりです。水瀬霧乃さん」

杉本瑠璃は冷淡に一言述べただけで、謝罪するつもりはなかった。

もし今日ぶつかったのが他の人であったり、あるいは他人が自分のカートにぶつかってきたのであれば、礼儀として謝罪の言葉を述べただろう。しかし、相手が水瀬霧乃であれば、そうはしない。

「霧乃、知り合い?」中年の上品な婦人は眉をひそめながら尋ねた。

水瀬霧乃は中年の上品な婦人を一瞥してから、頷いて言った。「ええ、以前一度お会いしたことがあります」

水瀬霧乃は巧みに返答し、上品な婦人は案の定、杉本瑠璃を審査するような目で見た後、高慢な口調で言った。「今後このような無作法な人とは、なるべく付き合わない方がいいわ。あなたの評判に傷がつくわよ」

知り合いと一度だけ会った人では、親密さが当然違い、態度も自ずと異なってくる。

杉本瑠璃は洞察するような目つきで、軽く唇を歪めた。「あなたこそ礼儀を知らないですね。私にぶつかっておきながら謝罪もせず、よく自分のことを分かっていらっしゃる。人に近づかないように言うなんて、評判を汚さないためですものね」

このような悪女に対して、杉本瑠璃は少しも怖気づかなかった。こういう人たちは甘やかされていて、いつも自分が偉いと思い込んでいる。このような人は、少し懲らしめてやらないと、自意識過剰になりすぎる。

「あなた!」中年の上品な婦人は、杉本瑠璃がこのように反抗してくるとは思わなかった。これまで長年、常に人々から持ち上げられ、機嫌を取られてきた彼女が、こんなふうに反抗されたことなど一度もなかったのだから!

「おばさま、お怒りにならないで。お体に障ります」水瀬霧乃は急いで中年の上品な婦人を宥め、目の奥に一瞬よぎった光を押し隠した。

「ふん!育ちの悪い者め。霧乃、今後このような人と知り合いだなんて決して言わないでちょうだい。面目が立たないわ!行きましょう。こんな場所にも二度と来ないことね。彼女のような育ちの悪い者はこういう場所にしか現れないのよ」