その後、杉本瑠璃と羽田和彦はしばらく話をして、帰る準備をした。
「もういいよ。引き止めないから。君の友達たちは心配で気が気じゃないみたいだし、今も下で待ってるから、会ってきたら?」
羽田和彦は斎藤きくこを見かけて初めて、杉本瑠璃の身に起きたことを知った。彼が駆けつけたのは偶然ではなく、意図的なものだった。
ただ、彼が予想していなかったのは、自分が手を下す必要もなく、杉本瑠璃が自力で解決できたということだった。
どうやら杉本瑠璃が今日水瀬英明についてきたのも、水瀬英明を罠にはめるためだったようだ。
水瀬英明は一億円も騙し取られて、しばらくは立ち直れないだろう。
杉本瑠璃は余計な話はせずに立ち去り、階下で友人たちに状況を説明すると、彼らは杉本瑠璃が無事なのを確認して、やっと安心した。
みんな早く帰りたがり、もうここで遊ぶ気分ではなかった。
杉本瑠璃は彼らと道が違い、車も持っていたので、斎藤きくこたちはそれぞれ帰っていった。
しかし、入口に立っていた杉本瑠璃は急いで帰ろうとはせず、車の中に座って、誰かを待っているようだった。
怪しげな様子で酒場から出てきた人物を見かけると、杉本瑠璃は車を降り、その人物を追って暗い路地の入口まで行った。
「誰だ?」尾行されていた人物は足音を聞いて、警戒して叫び、手にナイフを握っていた。
杉本瑠璃が暗がりから姿を現すと、尾行されていた人物は彼女の顔をはっきりと見た。
来た人が杉本瑠璃だと分かると、その人物は一瞬固まり、驚いた様子だった。
「お前...お前か!なぜ俺を付けてくる?」
杉本瑠璃は少し邪悪な笑みを浮かべ、細めた目で壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「メクラさん、いい芝居を見て帰るつもりだったの?少し甘く考えすぎじゃない?」
そう、この怪しげな男こそがメクラさんだった。
メクラさんは杉本瑠璃と羽田和彦が去ったのを見てから、しばらく待ってからこっそり出ていった。
本来なら胸をなでおろしていたはずだった。今日のことは彼にとって得をした出来事だったのだから。
しかし、杉本瑠璃が外で一人で待ち伏せしているとは思いもよらなかった。
メクラさんは手にナイフを持っていたものの、杉本瑠璃の前では少し弱気になっていた。