「あの時のことだったのね……」
杉本瑠璃は斎藤きくこがこのことに触れるのを聞いて、誰がやったのかだいたい分かった。
二人は普通の声で話していて、声を潜めていなかったので、周りの人たちも杉本瑠璃と斎藤きくこが何を言っているのか聞こえていた。
「つまり……もし斎藤きくこが新聞に載ったあの時にカミングアウトしたというなら、私も……カミングアウトしたことになるのかな?あ、そうだ、あの時は確か鈴木てんいち、高橋智樹、風間海斗たちもいたよね。あなたたちの論理でいけば、彼らも一緒にカミングアウトしたことになるね。どう思う……?」
杉本瑠璃はまた別の学生を指さした。指された学生は顔色が悪くなり、「そ、そんなはずがありません!」
鈴木てんいちたちがどういう身分なのか、学校では知っている人もいる。彼らがカミングアウトするなんてあり得ない!
「え?あなたたちはこの写真だけで斎藤きくこがカミングアウトしたと断定したんじゃないの?鈴木てんいちたちがいたら、それはあり得ないの?」
質問された学生は少し恥ずかしそうにした。紅葉学園の学生は間違いを認めないわけではなく、杉本瑠璃がこれらのことを説明した後、彼らは自分たちが誤解していたのかもしれないと思い始めた。
しかし、あれだけ多くの報道があり、写真もあり、さらにユニバースメディアからの情報もあったので、簡単に信じてしまったのだ。
もちろん、彼らにもある程度の偏見はあった。斎藤きくこの出身があまり良くないので、カミングアウトするようなことも起こりうると思っていた。
「確かに…軽々しく信じてしまいました。でも、火のないところに煙は立たないとも言います。こんな噂が広まるからには、何か根拠があるのではないでしょうか?」
彼らは杉本瑠璃の手にある残肢を恐れていたが、だからといって自分の心に反して杉本瑠璃に同調するわけではなかった。
杉本瑠璃はうなずいた。「あなたの言うことも一理あるね。でも前提として、あなたには確かな証拠があるの?もしあるなら、堂々と出してみせて。でももしないなら、ふふ、あなたの行動はそれほど正々堂々としたものではないよね?」
紅葉学園は常に正義を重んじ、学生たちも当然そうだった。証拠もなく同級生を中傷するのは、追及されれば品行の問題になる。
紅葉学園では、品行は知能よりも、身分よりも重要だった。