005 文系から理系へ、神となる瞬間を目撃する
白川華怜は頭を横に傾げながら、左手で彼の髪を掴んでいた。その手から鮮やかな赤が覗いていた。煙が彼女の精緻で艶やかな顔を薄く曇らせていた。
息を呑むような美しさだった。
白いタンクトップの男は、瞳に映る白川華怜の意味ありげな笑みを見つめ、もはや他の欲望など感じられなかった。
彼は言葉を発することができず、ただ恐怖に震えながら首を振るばかりだった。
「そう。」
白川華怜は手を離した。
タバコは彼女の好みの香りではなかった。
彼女は物憂げにタバコを足元に投げ捨て、踏み消した。「現場の片付けはできるわね？」
彼女は礼儀正しく、他の者たちは本当に怯えていた。
おとなしく頷く。
白川華怜は袖を払いながら、去り際に彼らを一瞥し、さらりと言った。「何を怖がってるの？首を切ったわけじゃないでしょう。」
とても気さくな態度だった。
もちろん、白菜を切るような口調でなければ。
彼女が去った後、白いタンクトップの男は壁際に崩れ落ち、恐怖に震えながら痺れた指先を動かした。
手下はしばらくしてからようやく近寄る勇気を出し、彼の足元に屈み込んで、タバコを一本取り出して気を紛らわせた。「なんで彼女に喧嘩売ったんだよ？」
白いタンクトップの男は「……」
15分後。
パトロール中の警官二人が再び戻ってきた時、彼らは清水通りの問題児で、それなりの勢力を持つ不良グループのボスが怪我を負いながら、おとなしく店主のために——
掃除や荷物運びをしているのを目を丸くして見つめていた。
他の手下たちも黙々と働いていた。
「何見てんだよ？」白いタンクトップの男はタバコを咥えながら、二人の警官を横目で睨み、苛立たしげに言った。「クソ警察め！」
文句を言いながらも箱を運び続けた。
傍らの店主は震えながら、手を伸ばして荷物を運ぼうとした。
白いタンクトップの男は以前の未払いのタバコ代を店主に返し、凶悪な顔つきで言った。「誰が片付けろって言った？」
彼は黙々と荷物を運び続け、一箱のタバコを吸い終わっても理解できなかった。
いや、あいつ頭おかしいんじゃないのか？？
こんなに可愛く笑うくせに喧嘩は凶暴すぎだろ？！
白いタンクトップの男は無表情で考えた。あいつは本当に俺の首を切ろうとしたんだ！
少し離れた場所で。
「もしもし？署長。」若い警官は警戒しながら売店を見つめ、無線機を取り出し、深刻な表情で言った。「はい、清水通り112番の売店の店主の徹底調査を申請します。ええ、冗談じゃありません！！！」
**
まだ日が暮れない内に、白川華怜が戻ってきた時、安藤秀秋はちょうど彼女を探しに出ようとしていた。
彼は気づいた。外出から戻った白川華怜の機嫌が良くなっているようだった。
安藤秀秋は少し安心した。陽城市の北区は生活水準に大きな差があり、白川華怜が慣れないのではないかと本当に心配していた。
白川華怜は石のテーブルに座り、手で顎を支えながら、安藤秀秋が何度も往復して家の水がめを満たすのを見ていた。突然口を開いた。「おじさん。」
安藤秀秋は水桶を井戸の側に置き、白川華怜の声を聞いて、一瞬固まった。
白川華怜は以前、安藤蘭について陽城市に来たのは二回だけで、これが初めて「おじさん」と呼んだ。
「はい」彼の声は急に高くなった。「何？」
白川華怜は大きな目をパチパチさせ、とても素直な様子で言った。「理系に転科したい。」
彼女は「したい」とは言わなかった。
「する」と言った。
「ああ」安藤秀秋は水を汲む縄を手に取り、考えを巡らせた。「おじさんに理由を教えてくれる？」
彼は白川華怜が文系だということを知っていた。文系と理系のカリキュラムの違いは大きすぎる。理系は非常に厳しく、論理的思考が必要で、難易度も明確で、できないものはできないのだ。
白川華怜は微笑んだ。
安藤秀秋と安藤宗次の二人は口数が少なかったが、白川華怜に対しては明らかに探り探りで慎重な態度を示していた。これは彼女が異世界に来たばかりの時に、受け入れられ認められているような感覚を与えた。
彼女はそれを嫌とは思わず、むしろ少し帰属感を感じていた。
もちろん、彼女には元の持ち主がなぜこんな良い家族を捨て、関係のない人々のために湖で死んでしまったのか理解できなかった。
「特に理由はないわ」白川華怜は首を傾げ、また尋ねた。「だめ？おじさん？」
安藤秀秋は「いいよ、大丈夫だ……任せてくれ！」
安藤宗次を探しに行く安藤秀秋の後ろ姿を見ながら、白川華怜は素直な表情を消し、だらしなく顎を支えて笑った。
生きるのも、まあまあ悪くないかもね。
**
「それがお前が彼女を承諾した理由か？」安藤宗次は布を一枚取り出し、安藤秀秋を見つめ、しわの刻まれた顔に理解に苦しむような表情が浮かんだ。
中庭には人があまりおらず、左側には台所の他に小さな倉庫があり、中には布地が一杯に詰まっていた。
年数は経っているものの、色は依然として鮮やかだった。
安藤秀秋は時間があれば安藤宗次の掃除を手伝いに来ていた。
彼は照れ笑いを浮かべ、防塵カバーを一枚きちんと掛け、小声で呟いた。「でも、彼女が僕をおじさんって呼んだんだよ。」
「馬鹿な話だ」安藤宗次は厳しい表情を崩さず、威厳を保ったまま言った。「彼女が分からないのはまだしも、お前まで分からないのか？華怜はもう高校三年生だぞ、文系から理系への転科は遊び事じゃない。」
高校三年で転校すること自体が十分無茶な話だった。
息子は頭が良いはずなのに、なぜこの件に関してはこんなに分かっていないのだろう。
安藤秀秋も白川華怜がなぜ一回り外出して戻ってきた後、機嫌が良くなったと思ったら突然転科を希望するのか理解できなかった。
彼は黙々と手元の仕事を続けながら、突然何かを思い出したように、躊躇いながら口を開いた。「白川家のあの二人の私生児、確か理系だよな？」
白川圭介は昨年、市のトップで江渡大学に合格し、白川家はネットで長い間話題になっていた。陽城市でもその噂を耳にしており、あの私生児の理系の成績も極めて優秀だと聞いていた。
安藤宗次は上質な絹布を撫でながら、それを聞いて、すぐには口を開かなかった。
彼の手には既に深い皺が刻まれていた。しばらくして：「あの子の気性は……」
「お父さん」安藤秀秋は少し後悔しながらこの話題を出したことを、「華怜は今回、分別があって、しっかりした考えを持っているように見えます。大器晩成ですよ。もう一年浪人させてみれば、理想的な成績を取れないとも限りません」
もちろん、それは適当に言っただけだった。
自分の姪がどんな子か分かっていた。高校三年生を静かに終えられれば上出来だ。家族も姪がトップの成績を取ってくるなんて期待していない。彼女が楽しければそれでいい。
文系理系、どちらでもかまわない。
安藤宗次は体を回し、後ろの棚から慎重に油紙包みを取り出し、それを開いて細い針を取り出した。
反論はしなかった。
安藤秀秋は一目で父の同意を察した。布地を置き、安藤宗次が針を手に取るのを見て：「刺繍台を出しましょうか？」
安藤宗次はすぐには返事をしなかった。
しばらくして、かすかに頷いて、「ああ」
安藤秀秋は目を輝かせ、「はい！今すぐ」
夜になっていた。安藤秀秋は水島亜美に遅くなると電話をし、安藤宗次の倉庫の整理を手伝い、刺繍台などを取り出して洗浄し、中庭で乾かした。
彼は鼻歌を歌いながら濃い色の刺繍台を拭いていた。
白川華怜の部屋の明かりもついていて、窓に映る影から、彼女が机で本を読んでいるのが見えた。
白川華怜は違う、安藤秀秋にはそれが分かった。今日帰ってきた時、石の間の黒い水を踏んでも眉一つ動かさなかった。
彼女は母親とは違う。
安藤秀秋は突然、白川華怜が白川家から送り返されてきたことは、必ずしも悪いことではないかもしれないと思った。
**
安藤秀秋は白川華怜のために学校と先生との連絡を取っていた。
それに加えて、彼女の戸籍を安藤家に移す必要があった。
白川華怜はここ数日図書館にいた。この時代で彼女を驚かせたのは携帯電話やパソコンだけでなく、図書館もそうだった。
これほど豊富な蔵書を持ち、一般公開している図書館を見たことがなかった。
これは本当に素晴らしい時代だ。
ただ一つ問題がある——
白川華怜は手元の物理の教科書を見下ろし、物理の問題集も見て、二問解いた後に筆を置き、小声で呟いた：「私、ついに先生の名声を汚すことになるのかしら？」
かつての六芸や人生の八雅について、精通しているとは言えないまでも、少なくとも一人前にはなっていた。
現代の急速に発展した科学技術について、元の彼女の頭の中は空っぽで知識は全くなかったが、自分で図書館で数日本を読んで、大部分は理解できた。
彼女が読んでいる本はそれほど難しくないと思ったが……
問題はこうだ——
彼女が学んだ知識と例題：【1+1=】
彼女が解いた問題：【e（iπ）+1=0の証明】
白川華怜はぼんやりと考えた——
先生のところにお線香を多めに上げれば、現代で先生の顔を潰してしまうことを許してくれるだろうか？
図書館は蔵書は多いが、不足もある。
例えば、より深い知識や、より多くの問題集。
それらは見つけられなかった。
彼女のため息を聞いて、隣で絵筆を持っていた子供が首を傾げ、黒白はっきりした大きな目をぱちぱちさせながら彼女を見た。
「Cだよ」
彼は突然口を開いた。
白川華怜は一瞬止まり、答えを確認した。C、正解だった。
そこで顔を向けて、「暗算？」
彼女が図書館に来た初日から、陽城市に来て駅から城門まで一緒だった少年に会っていた。縁が深い。
その後数日間、二人とも朝八時の開館時間に正確に現れ、一緒に本を読んで勉強し、あまり話さなかった。
小さな子は首を振った。
しばらくして、説明した。「兄がこの手の問題に速記モデルを作って、アルゴリズムがあるんだ」
普通の子供が速記モデルを覚えているだろうか？
しかし白川華怜は平然と受け入れた：「そう、タピオカミルクティー飲む？」
「いや……」
白川華怜は彼に反対する機会を与えず、机に伏せて春風のように優しく笑った：「そうそう、ずっとあなたを親友だと思っていたけど——」
彼女は少し詰まって、「名前は？」
木村翼：「……」
「木村翼。鶴が寂しい山に帰らないの翼」
「ああ、木村翼くん、ずっとあなたを親友だと思っていたの」白川華怜は手の紙を丸めて後ろに投げ、彼の頭を軽く叩いた。「行きましょう」
二人は席を立った。
紙は角にある赤い透かし彫りのゴミ箱にぴたりと入った。
ポケットの携帯が鳴り、発信者名のない番号から。白川華怜は適当に出た。「はい？」
相手は明らかに彼女の冷静な声を予想していなかったようで、一瞬の間を置いて、冷たく話し始めた。「俺だ」
「誰？」白川華怜には我慢強さがなかった。
「白川華怜、俺は白井沙耶香と共通点が多いだけで、彼女がいなくても、俺たちの関係は何も変わらない」電話の向こうで、松木皆斗は白川華怜が自分の番号を持っていないはずがないと信じ込んでおり、彼女がわざとだと思い込んでいた。彼は眉間を押さえ、冷淡で嫌そうに：「そのために拝師の書を陽城市に持って行くなんて、幼稚だと思わないのか？」