「松木おばさん、さようなら」
白川華怜は安藤秀秋が出てくるのを見て、礼儀正しく松木奥様に別れを告げた。
松木奥様は玄関に立ち、白川華怜たちが去っていくのを見送った。
彼女は車に戻り、携帯電話を手に取り、しばらくしてからようやく一つの番号をダイヤルした。
相手はすぐに出た。「松木奥様?」
白川明知だった。
松木奥様は運転手に発車を指示し、「白川社長、今華怜を見かけました。北区に戸籍を移すために来ていて、10時35分の列車です。今回帰ったら、もう白川家の人ではなくなります。あの子は子供っぽいところがありますから、白川執事を派遣して連れ戻されますか?」
電話の向こうで、白川明知はペンを置いた。
窓の外を見つめながら、白川執事から華怜が出て行ったと聞いてから、もう10日近く彼女の消息を聞いていなかった。
華怜は最後にあの師匠の推薦状を持ち去った。この点では母親によく似ていて、玉砕しても他人の思い通りにはさせない性格だった。
実際、10日が経って、白川明知の怒りは半分収まっていた。
しかし——
「ご連絡ありがとうございます」白川明知は視線を戻し、「ですが華怜はもう18歳です。自分で去就を決められる年齢です」
そう言って、電話を切った。
白川家は大きく、華怜一人を養うのは難しくない。
しかし白川明知は華怜と白井沙耶香の間の確執も知っていた。
今回華怜が推薦状を持ち去ったことで、もし彼女を連れ戻せば、白井沙耶香の心に必ずしこりが残るだろう。
白川明知は先を見据えていた。今、白川圭介は前途有望で、華怜というゴマ一粒のために大きな西瓜を失うわけにはいかなかった。
だから松木奥様からの電話を受けなかったことにするしかなかった。
今日も彼は華怜と白川圭介たちの間で選択を迫られた。しかし明らかに……
選択の余地などなかった。
白川家。
本家の最年長の太公がこの件を知り、少し気にかけた様子で「明日、良い時間を選んで、彼女の名前を消すように」
「明日消すんですか?」
「そうだ」太公は少し考えて、「必ず沙耶香と圭介に知らせるように」
華怜の名前を消すことは些細なこと。
重要なのは兄妹二人に白川家の態度を示すことだった。
単に名前を消すだけのことで、彼らにとっては全く取るに足らないことだった。
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一方。