畑野景明も荷物を片付け終わり、空沢康利の叫び声を聞いていた。
振り返ると、案の定、白川華怜の白い顔に冷たい表情が浮かび、危険な目つきで細めた瞳は、言葉を発しなくても畑野景明に寒気を感じさせた。
普段の怠惰な様子は消え去っていた。
畑野景明は空沢康利のカバンの紐を掴み、額の黒髪から覗く陰鬱な目に光を宿らせながら、冷静な口調で言った。「枠を一つやるから、何を騒いでるんだ。先に出ろ。」
とても厳しく、声も大きかった。
空沢康利は「ああ」と声を潜めた。
白川華怜は細長い指でバッグを持ち直し、やっと視線を外して、少し投げやりな態度で出口へ向かった。
二人は後を追った。
階段教室の全員が三人の去り際を見送り、姿が見えなくなってから、お互いの顔を見合わせた。
「今、空沢君は何て言ったんだ?」