田中局長は複数の感嘆符を使って自分の驚きを表現した。
明石真治はこの分野の専門家ではなく、人生で最大の挑戦といえば天体物理学を少し学んだことくらいだが、田中局長の言わんとすることは理解できた。「そんなに希少なんですか?」
「イリジウムは今、そんなに高価に見えないかもしれないが」田中局長は首を振った。「海外に行って鉱山所有者と交渉しても手に入らないんだ。品薄で値が吊り上がるってわかるだろう?」
世界中でイリジウムが不足しており、その生産量は特に低い。
国内では現在、イリジウムを節約するため、リサイクルを強化している。
田中局長の前回の任務はF大陸でイリジウムの取引交渉だったが、十分な資金を持っていたにもかかわらず、鉱山所有者にさえ会えず、国内向けの調達に失敗した。
だからこそ彼はイリジウムに詳しく、一目で見分けることができた。
しかし……
誰がイリジウムをそんな風に手首に付けているというのか?
しかもこんなに、こんなに大きな塊を?
このイリジウムを江渡大学の実験室に持って行ったら、物理学科も化学科も大騒ぎになるだろう。
「一キロ?」明石真治も変な所に注目していた。彼は驚いて白川華怜の後ろ姿を見つめた。
彼女の手に一キロもの重さのものがあるとは全く気付かなかった。
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向かい側で。
木村浩が何か言おうとした時、ゆっくりと歩いてくる人影を見て、深いため息をついた。
白川華怜は彼の冷たい表情を見つめ、それからゴミ箱の横で耳を塞いで屈んでいる木村翼を見下ろした。
少し身を屈め、二本の指で木村翼の襟を摘まんで持ち上げ、目を細めて暫く観察してから、怠そうに口を開いた。「あなた、ゴミなの?ゴミ箱の横に屈んでるけど?」
木村浩は数手で木村翼が到達した段階までルービックキューブを戻した。
その言葉を聞いて、片手をポケットに入れたまま冷たく白川華怜の後ろに立ち、背の高い姿で、薄い色の瞳を細めながら、木村翼に冷笑を向けた。
木村翼は目を見開いて、信じられないという表情で白川華怜を見つめた。
白川華怜は手を放して、彼を下ろした。
木村翼は彼女の服の裾をしっかりと掴み、うつむいたまま、何も言わなかった。
彼女も彼がなぜそこに屈んでいたのか聞かなかった。一ヶ月近く付き合ってきて、木村翼の性格に問題があることは分かっていた。