校長はまだ本を整理していた。
物音を聞いて、急いで本を置き、二歩前に進んだ。
加藤正則が一枚の紙を見つめているのを見て、彼も下を向いて見てから、笑みを浮かべた。「これは白川くんが書いた字ですよ。中村くんと比べても、全く引けを取りませんね?」
校長は中村優香が加藤正則の直弟子だということを知っていた。
だから白川華怜を過度に褒めることはしなかった。
しかし加藤正則は首を振った。「いや、この筆力は、優香どころか、私の孫でさえも...及ばないかもしれない」
校長には分からなかったが、加藤正則には明確に分かっていた。
素人には「入木三分」の真の意味が分からない。筆先が紙の中に入り込み、指先の力加減の緩急を自在に操る。このレベルに達するには、相当な実力が必要だ。
彼は無意識のうちに、この字は男子生徒が書いたものだと思い込んでいた。
そして校長が言った「この生徒」というのは、まだ高校三年生なのだ。一体何歳なのか?
誰に習ったのだろう?
陽城市にこんな隠れた達人がいたとは。
加藤正則は急いで尋ねた。「どの生徒ですか?会ってみたいのですが」
校長は、加藤正則が白川華怜をこれほど高く評価するとは思っていなかった。「今から講演がありますから、講演が終わってから、お二人の面会をアレンジしましょうか?」
運が良ければ、大講堂で白川華怜に会えるかもしれない。
「はい」加藤正則も自分が焦りすぎていたことを知っていた。これから講演があるのだ。何度も念を押した。「必ず会わせてください」
校長には加藤正則がなぜそれほど急いでいるのか分からなかった。
しかし手配はした。彼は奥田幸香に電話をかけに出て行った。
加藤正則は携帯を取り出し、文化観光局長にメッセージを送った——
【今後、陽城市の書道協会設立に希望が出てきたかもしれません】
相手は加藤正則を特別な連絡先に設定していたようで、メッセージを受け取った一秒後に校長に電話をかけてきた。
**
昼時。
白川華怜は授業が終わるやいなや、水島亜美からの電話を受けた。
「華怜」水島亜美は小さな声で言った。「お母さんが今日突然私を食事に誘って、あなたにも電話して来るように言われたの。平安苑よ」
でも水島亜美は同意しなかった。