ある人は功名を深く隠し、さらりと口を開いた。「いいね」
木村翼は白川華怜の隣に座り、無表情で大辞典をめくっていた。
「冬休みに江渡アプリで地域限定の特訓があるんだ」木村浩は白川華怜のスマートフォンを手に取り、少し確認してから「化学の勉強に役立つよ」と言った。
白川華怜は特訓があることを初めて聞き、考え込んでいた。
午後9時。
図書館が閉まる時間だ。
木村浩は白川華怜が鞄を片付けるのを見ながら、鋭い目を細め、少し考えてから「遠山貴雲が今日たくさんの美味しい料理を作ったよ」と言った。
遠山貴雲は白川華怜が今まで出会った中で最高の料理人だった。
彼の料理について、彼女は少し躊躇したが、それでもサッとカバンのジッパーを閉め、木村浩の方に首を傾げて、少し残念そうに「じゃあ、あなたと木村琴理で食べてください。私はおじいちゃんと一緒に食事をしないと」と言った。
安藤宗次はここ数日、不安な様子だった。
白川華怜は毎晩帰って一緒に食事をしていた。
「おじいさん、まだ食事してないの?」木村浩は彼女を見た。
「うん、あなたたちは食事に行ってください」白川華怜は後ろに手を振りながら「私はバスで帰ります」と言った。
言い終わるとバスが停車し、白川華怜はカバンを持って直接乗り込んだ。
木村浩は無表情でバスがゆっくりと遠ざかっていく後ろ姿を見つめていた。
傍らで、木村翼が地面にしゃがみ込んでいた。
黙って木村浩を見上げた。
木村浩は上から彼を見下ろし、冷笑した。「しゃがんで、誰かに見つからないようにしてるの?」
?
**
翌日、火曜日。
白川華怜は昼食を抜いて、PRビデオの撮り直しに行かなければならなかった。
前回と同じカメラマンで、彼は白川華怜を認識し、とても驚いた様子で「白川くんも梁体字が書けるんですか?」
白川華怜が答える前に、隣にいた校長が興奮した様子で「そうなんです。それに白川くんは梁体字がとても上手なんですよ」とカメラマンに説明した。
今日は書道のシーンを撮り直すためだった。
白川華怜は制服の上着を脱ぎ、中の生成り色の服を見せ、狼毫の筆を手に取った。
「この机で書いてください」カメラマンは優しい声で言った。校長が推薦した新しい人選なので、当然協力的だった。
白川華怜は机の前に立った。