「いいえ」加藤正則は手を振った。
事務室のドアの方をじっと見つめていた。
彼の隣で、局長が来たばかりで、校長が彼らに見せた白川華怜が以前狼毫の筆で書いた一枚の書を見ていた。
その紙はカメラマンが追加撮影に持って行ったため、校長は写真しか持っていなかった。
「あなたの言う通りだと思います」局長は加藤正則に小声で言った。「私たちには本当に希望があるかもしれません」
二人が話している最中。
ドアが静かにノックされ、加藤正則と局長は即座に顔を上げた。細身の影が見えた。
相手は少し俯いており、長く白い指でドアに触れながら、ドアを開けるしぐさと共にだらしなく入ってきた。冷たい玉のような輝きがゆっくりと差し込んできた。
女子生徒だった。
局長と加藤正則は視線を戻した。
二人とも無意識のうちに、あのような字は男子生徒にしか書けないと思っていた。
「校長先生」白川華怜は校長を見て、目を細めた。「何かご用でしょうか?」
「私じゃない」校長も加藤正則たちを見て、この二人がちょうどこのタイミングでまた落ち着いているのが意外だった。「白川くん、加藤先生たちがあなたに会いたいそうです」
加藤正則は生徒が校長に用事があるのだと思っていた。
校長の言葉を聞いて、彼は「ガバッ」と立ち上がり、白川華怜をじっと見つめた。「この字を書いたのは彼女ですか?」
「そうですよ」校長は彼のこの反応に驚いた。
加藤正則は局長と目を合わせた。書道界は男性が多く女性が少なく、この七回の書道賞で、一等賞を取った女性はたった一人だけだった。
中村優香が見た中でも傑出していると思っていたが、まさかこんな力強い筆致を書いたのが女子生徒だとは。
局長は加藤正則より直接的だった。「白川くん、今年は書道賞に参加するつもりですよね?」
今年を逃せば、また三年待たなければならない。
白川華怜は彼らを知らず、眉を上げただけだった。「書道賞?」
聞いたことがない。
「……?」局長と加藤正則だけでなく、校長も余りにも意外だと感じた。「白川くん、書道賞を知らないんですか?」
白川華怜は真摯な眼差しを向けた。
もしかして隠れた大家の弟子なのだろうか?