藤野悟志は名簿を提出し、翌日には北区へ飛び立った。
さらに電車を乗り継ぎ、埃まみれになって陽城市に到着したのは月曜日の午後だった。
藤野家からは誰も見送りに来なかった。
彼は少しも意外に思わなかった。そもそも彼は運命に選ばれた人間ではなかったのだから。
藤野悟志は一人でスーツケースを引いて書道協会に到着すると、加藤正則が玄関先で掃除をしていた。
彼を見て顔を上げ、笑顔で言った。「藤野悟志君だね?まずは中へどうぞ。六時からメンバー会議があるから。」
白川華怜は静かに書道協会を設立し、開所式もなければ記者会見もなかった。
彼女は地元の段位を持っていない古い書道家たちを直接招待しただけだった。
筆を取って「陽城書道協会」という看板を書いた。
藤野悟志は以前加藤京弥から聞いていた話で、陽城書道協会はとても荒れ果てているだろうと思っていたが、実際に来てみると、古いものばかりだが非常に趣があった。