彼は渡辺和美に説明する時間がなかった。
直接車を運転して書道協会に向かった。
書道協会の審査室。
会議テーブルの中央に、真っ白なシャツを着た男が座っていた。彼は目を伏せ、白い指でパソコンの画面を叩いていた。細かい黒髪が眉骨まで垂れ、目尻と眉には冷たい雰囲気が漂っていた。
言葉を発しなくても、彼の全身から漂う気品と冷たさが感じられた。
彼が指を動かすたびに、審査室全体に冷たい風が吹き抜けるようだった。
彼の傍らに立っている儒雅な老人が笑みを浮かべて言った。「皆様、緊張なさらずに。坊ちゃまはただ見学にいらっしゃっただけですから。先生方はしっかり採点なさってください。リラックスして」
七人の審査員は震えながら作品を手に持ち、その言葉を聞いて、泣きそうになった。
そう言われても。
この方がここに座っているだけで、誰がリラックスできるというのか?
それに、木村坊ちゃまは黙っていても威圧感があるということを知らないのか?
木原会長が来ると、七人の審査員がウズラのように縮こまっているのを見て、「……」
「木村執事、お二人はどうしていらっしゃったのですか?」木原会長は非常に丁寧に、木村浩には直接話しかけることができず、傍らの老執事に尋ねた。
木村執事は微笑んで、「坊ちゃまはただ見学にいらっしゃっただけです。今回の書道賞に寄付をしようとお考えでして」
そう言いながら、木村執事は指で数字を示した。
木原会長は精神が引き締まった。「参加者を代表して木村坊ちゃまに御礼申し上げます!」
木村執事は七人の審査員を見て、「今年は実力者揃いと聞きました。木原会長のお弟子さんもその一人とか」
「和美のことですか?」木原会長は自慢の弟子の話題が出て、誇らしげに言った。「女性一人でここまで来られたのは、本当に並大抵のことではありません……」
木原会長が来てから、オフィス全体の雰囲気は少し良くなった。
七人の審査員の先生方はようやく作品の採点ができるようになった。
平均点制。
「この瘦金体は、紀伊辰也のものでしょうね」ある先生が一枚の作品を見て、隣の人と鑑賞し、そして感嘆した。「さすが今年の最有力候補です」
彼はこの作品に91点をつけた。
書道は百花繚乱だが、現代では本当に心を落ち着けて書道を学ぶ人は少ない。今回の書道賞は若い世代のために開催された。