草刈会長は一瞬固まった。「彼があなたの先生だと知っていますよ」
「先生ですか?」鈴村景塚は首を振った。複雑な表情で「彼の公開講座を数回聴講しただけです。法政大学の皆が彼の弟子になりたがっていましたが、彼は弟子は取らないと言っていました」
「もちろん、それは重要ではありません」鈴村景塚は思考を切り替え、草刈会長を見つめた。「控訴審は置いておいて、これからはご自身と会社の安全を心配されたほうがいいでしょう。御社に財務上の不正がないことを願います」
「何ですって?」草刈会長は鈴村景塚の口調に驚いた。
不安な感情が広がっていった。
「遠山先生は刑法改正に関わっていますが、彼の真骨頂は経済・資本市場案件です」鈴村景塚は視線を外し、外に向かって歩きながら言った。「彼の主戦場は常に国際舞台でしたから。ご存知ないかもしれませんが、CNグループはご存知でしょう?彼と彼の法律チームに潰された会社です」
「世界の十大弁護士の中で、国内からは彼だけが選ばれているんです。分かりますか?」
言い終わると、鈴村景塚は車に乗り込んだ。
後ろで、草刈会長の表情が変わった。経済法を研究する弁護士に目をつけられることがどれほど恐ろしいか、誰よりも分かっていた。
CNグループ、5年前には国際的に名を馳せた財閥だった。
草刈家の資産はCNグループに比べれば取るに足らないもので、彼はようやく恐れを知った。
急いで会社の財務部門に電話をかけた。
もちろん、この時点では手遅れだった。
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山田の件は15組にはあまり影響がないようだった。
彼の席も空いたままだった。
畑野景明には隣席の生徒がいることは皆知っていたが、その席は今は空いていた。
木曜日の昼、白川華怜は車の中で窓に肘をついて、目を細めながら山田の補習をどうするか考えていた。
「あいつ?」白川華怜の考えを聞いた運転席の木村浩は冷笑した。「手の施しようがない」
木村坊ちゃまは畑野景明のことさえ罵る。
山田に対してはまだ丁寧な方だった。
しかし彼の学習方法は確かに山田には合わないと、白川華怜は考えた。帰って畑野景明と空沢康利に聞こう、この二人の方が普通の人に近い。
車は病院に到着した。
今朝、水島亜美が退院した。
田中局長は水島亜美のために厄除けの柳の枝を用意していた。