093 華怜、再び長槍を手にする(2)

もう一度顔を上げた時。

田中局長が入り口から出てくるのが見えた。

田中恭介は気を引き締めた。

「恭介」田中局長が近づいてきて、「何の用だ?」

「局長、ご存知ですか」田中恭介は真剣な表情で興奮気味に言った。「黒水通りで新しい軟膏が出たんです。人体の回復に非常に効果があって、大内…」

話の途中で、団地からのんびりと出てくる白川華怜と木村翼の姿が目に入った。

興奮した声は突然途切れた。

彼は声を潜め、白川さんに聞こえない音量で確認した。「大内補強軟膏というんです。でも限定販売なんです。」

武道家にとって、これは非常に魅力的な誘惑だった。

「知っているよ」田中局長はこの件を最初から知っていた。大野孝次側の人々と協力を求めて連絡を取っていたが、まさか彼らが自分たちでブランドを立ち上げるとは思わなかった。「しかし大野孝次は骨の折れる相手だ。」

田中家はこの協力を切実に必要としていた。

彼は相手と長い間駆け引きをしていた。

相手側の六番目か八番目かの人物が滑りが上手く、彼はその人物に一度も会えていなかった。

「だから家族は他の人を格闘場に派遣して交渉させるつもりです。」田中恭介が口を開いた。

大内補強軟膏はほとんどがオークションで使用されていた。

「誰だ?」田中局長は驚いて、田中恭介を見つめた。

「吉田様です。」田中恭介は白川華怜が車の側まで来ているのを横目で確認し、言いかけた言葉を飲み込んだ。「夜にまた来ます。」

白川華怜はイヤホンをつけて、英語のリスニングを聴いていた。

田中局長たちが何を話しているのか、彼女は全く気にしていなかった。

そのまま木村翼と車に乗り込んだ。

車のドアが閉まってから。

田中局長は田中恭介を見て、「白川さんもかなりの実力者だよ。」

「彼女はどんな流派なんですか?長拳か総合格闘技、それとも長槍?あるいはムエタイ?」田中恭介は驚いた様子で、局長の言う実力がどういう意味か知っていた。「彼女は今何段なんですか?」

「彼女?独学だろうね。でも力は非常に強い。」田中局長は幸運にも白川さんの動画を一本見たことがあった。

型は整っていないものの、白川さんの力の強さは一目瞭然だった。

「独学か」田中恭介は視線を戻した。「てっきり局長の口ぶりからして、吉田様と互角だとでも言うのかと思いました。」